- 序章 役に立つ心理学へ
- 第1章 2つの心理学の出会い
- 第2章 ぶつかる心理学
- 第3章 否定されるフロイト、忘れ去られたアドラー
- 第4章 そして再評価されるアドラーとフロイト
- 第5章 心理学は今、どこまで人の心を癒やせるようになったか
- 終章 フロイト・アドラーから100年、より良く生きるための心理学
序章 役に立つ心理学へ
心理学の 2つの 大きな目的 |
実験心理学 |
「健康な心」「正常な心」のあり方を探る心理学。 誰にでも当てはまる一般的な心の働きを研究するもの。 |
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臨床心理学 |
「病んだ心」「傷ついた心」を治すための心理学。 臨床心理学の源流にフロイトとアドラーがいる。 |
心 | 脳 | |||
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健康 | 実験心理学 | |||
病気 |
臨床心理学
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生物学的精神医学 |
臨床心理学 | 原因論(フロイト) | 何が心を歪ませたのか |
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目的論(アドラー) | なんのために、そんな異常な行動を起こしたのか |
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現在、臨床心理学の現場では、フロイト式は主流ではない。
役に立たなくなってきたから。
理論が立派でも、患者の役に立たなければ意味がない。
第1章 2つの心理学の出会い
フロイト
- フロイトが画期的だったこと:
- 「人間の心理は人それぞれ違う」という前提で、人の心理を理解しようとしたこと。
- 「無意識の発見」: それまで研究の対象でさえなかった無意識を、心理学の主役に引き上げた。
- 『夢判断』→「自由連想法」→「人それぞれの心のあり方」を探る
フロイトの局所論モデル
局所論 モデル |
意識 | |
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前意識 |
意識していない事柄でも、手を伸ばせば届く。 ふとした表紙に表面まで浮かび上がることもある。 |
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無意識 |
本人には手が届かない。 自然に意識レベルに浮上することもない。 |
- 心の傷や葛藤を無意識レベルから意識レベルに引き上げることが、治療方針。
- 夢判断:夢は「前意識」の産物。「無意識」にあるものが「前意識」まで浮上したのが夢。
- 自由連想法:夢を手がかりに、無意識を知る。
-
「無意識」を探って、「押し込められた記憶」を探る。
↓
「心の傷を作った過去」がないことも。
↓
「患者が意識したくない願望や衝動」(欲動)が押し込められていると考えた。
↓
フロイトが重視した欲動が「性欲」。
男女問わず、幼児にも性欲があることを発見したのはフロイト。当時としては画期的。
フロイトの構造論モデル
局所論モデル | 患部から悪いものを取り出して治す「外科手術」 |
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構造論モデル | 欲動が押し込まれないようにするための「予防」 |
構造論 モデル |
エス |
性欲や攻撃性といった動物的な本能。 欲動と同じようなもの。 |
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自我 |
人間的な理性。 エスが馬、自我が騎手。 |
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超自我 |
親から植えつけられた道徳観や価値観。 成長の過程で「そんなことをしてはいけない」「おまえはこういう人間になるべきだ」などと 叩き込まれたものが、大人になってからも心の中に居座って、 エスや自我に「それはダメだ」と禁止命令を出し続ける。 目に見えない「頑固オヤジ」が心の中で説教している。 |
- この3つの相互のバランスが崩れたとき、神経症が起きる。
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バランスを取るためには、自我を鍛えなければならない。
- 暴れ馬のようなエスをコントロールするだけでなく、 超自我の過剰な禁止命令に対抗するのも自我の役割。
- エスや超自我とのつき合い方を自覚することで、自我を鍛えられる。
フロイト理論の正当性
- 心の仕組みは目に見えないので、仮説にすぎない。
- 役に立つなら仮説にも十分に意味がある。
- 「治療が効く」≠「理論が正しい」
-
フロイト自身のバイアスがある。
- 性欲の重視
-
父親の重視
→ エディプス・コンプレックス
(母親を手に入れたい子どもが、父親に対して強い対抗心を抱くことによって生じる心の葛藤)
第2章 ぶつかる心理学
ダーウィニズムの影響
フロイト |
人間をほかの動物と同じと考える。(ダーウィンの影響) 子ども時代にすべてが決まる。 |
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アドラー |
人間の心を「社会」との関係性の中で見る。 「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」 性的な欲動は、さまざまな原因の1つにすぎないと考える。 |
アドラーの「個人心理学」
- 個人心理学、individual psychology
- individual = 分割できない
- アドラーは、個々の人間を「それ以上分割できない存在」だと考える。
- フロイトが「意識・前意識・無意識」「エス・自我・超自我」のように個人を分割することに反対。
アドラーの「目的論」
- 「優越したい」という欲求があって、そのために「劣等感」が生じる。
- 先に劣等感があって、それを埋めるために優れた人間になろうとするのではない。
- 感情は行動の「原因」ではなく、目的を果たすための「手段」。
- 「相手に自分のいうことを聞かせる」という目的があって、「怒り」という感情を作り出し、利用している。
フロイトへの反旗
フロイト | 性欲 |
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アドラー | 劣等コンプレックス |
ユング |
無意識 人間の心に「元型」と呼ばれる人類共通の部分がある。(先天的に持つ普遍的かつ集合的な「無意識」) 後天的な「無意識」もあり、それを「コンプレックス」と呼ぶ。 |
ウイルヘルム・ライヒ |
性欲 ひたすら性的な快楽を追求すれば神経症にはならないし、それが人間のあるべき姿だ。 |
オットー・ランク |
母子関係 出産外傷説:人間は最初から心が傷ついた状態で生まれてくる。治療には「共感」が大事。 |
第3章 否定されるフロイト、忘れ去られたアドラー
アルフレッド・アドラー | 個人心理学 |
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ジークムント・フロイト | 精神分析学 |
メラニー・クラインの児童分析
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「良いオッパイ」と「悪いオッパイ」
- 赤ん坊にとって、母乳がよく出るときのオッパイと出ないときのオッパイを別物と認識する。
- 赤ん坊自身も、「グッド・セルフ」と「バッド・セルフ」に分かれている。→ スプリッティング
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普通はやがて1つにまとまるが、幼児期の心の成長がうまくいかないと分裂してしまう。
→ パラノイド・スキゾイド・ポジション(妄想分裂態勢)
→ 周囲の世界が怖いものに
→ シゾイド(引きこもり的なパーソナリティ)
心の病 | 精神病 | 総合失調症 | |
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躁うつ病 | |||
ボーダーライン (パーソナリティ障害) (シゾイド) |
急に人格が豹変する ストーカー |
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神経症 |
- 神経症用の薬が誕生 → 精神分析はボーダーラインを対象に
ボーダーラインに対応する精神分析
対処方法 | 自我を鍛え直す |
オットー・カーンバーグ クライン学派の流れ 攻撃性を重視 攻撃性は「死の本能(タナトス)」から生じるエネルギー 自己破壊を含め、すべての破壊性の源泉はタナトス 精神分析を通じて患者に、スプリッティング状態や自分の攻撃性を理解させ、自我を鍛える。 |
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愛情を与えて育て直す |
ハインツ・コフート 自身がないから自己愛(後述)が傷つきやすい。 そのため怒りやすくなったり、不適応な対人行動をしていまう。 だから「育て直し」が必要。「共感」によって自己愛を満たしてやる。 |
コフートの「自己愛」理論
フロイト |
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コフート |
自己愛を捨てて他人に一方的な愛情をそそぐことはない、と考える。
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- 自信がないから自己愛が傷つきやすい。そのため怒りやすくなったり、不適応な対人行動をする。
- 「共感」によって自己愛を満たしてやり、「成熟した自己愛」を持てるようにする。
第4章 そして再評価されるアドラーとフロイト
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1970年代に息を吹き返す精神分析
- ベトナム戦争、反戦運動、フェミニズム運動
- → PTSDという診断名が誕生
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患者にトラウマ記憶を思い出させ、「カタルシス効果」(浄化)によってスッキリさせる。
- → 患者の心の状態は、治療前より悪くなる。
- → 精神分析は風前の灯に。
- コフート流の「共感」による治療が用いられるように。
- 今の主流は「変えられるものを変える」療法。
認知療法 |
物の考え方や受け止め方を変える。 ある状況で自分の考えたことを文章で記録させ、実際にそれが起きる確率を書かせる。 |
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行動療法 |
行動を変えることで心の状態を変える。 不登校の子どもを手を引っ張ってでも学校に通わせる。 |
認知行動療法 |
行動を変えることで認知を変える。 実際に電車に乗せて、パニックが起こらないことに気づかせる。 |
- 認知療法や行動療法は、社会生活に不適応な人を適応的にする。マイナスをゼロにする。
- アドラー心理学の「ライフサイクル」は、マイナス(劣等感)を埋めるだけでなく、積極的にプラス(優越性)を手に入れることを目指す。
- 無意識の領域にある「原因」を探るより、意識レベルで患者の心を動かしていく手法が主流。
第5章 心理学は今、どこまで人の心を癒やせるようになったか
- 今の社会に多い心の病に対する心理療法のアプローチ、3つのポイント。
1 |
「思い込み」を解きほぐして、柔軟な考え方ができるように仕向ける。 「顔が赤いと嫌われる」という思い込み。 |
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2 |
対人関係をうまくできるようにする。 アドラーの「共同体感覚」・・・自分の利益のためだけでなく、より大きな共同体の利益にもなるように行動する。 |
1 |
感情のコントロール。 認知療法、行動療法。 |
総合失調症 |
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うつ病 |
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依存症 |
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-
「感情」と「認知」には、切り離せない関係性がある。
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うつ病は「認知」を修正することで「感情」が良くなり、
総合失調症は「感情」面に訴えかけることで「認知」が修正される。
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うつ病は「認知」を修正することで「感情」が良くなり、
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報償系
- 「今、これを我慢すれば後で多くの報償を受けられる」
- 報償系は、生まれつき備わっているのではなく、子どもの頃からの教育によって植え付けれられる。
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ボーダーライン・パーソナリティ障害
- 社会への適合が困難な個性
- 3つのクラスター(奇異群、劇的群、不安群)
- どのパーソナリティ障害であれ、本人のパーソナリティそのものを心理療法によって変えるのは、かなり難しい。
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反社会性パーソナリティ障害
- 治療不可能。
- モラルが欠如しており、他人の権利や感情にまったく無頓着で、平気で嘘をつく。
- 快楽殺人者はこの障害の持つ。
- 死刑制度が法律上のストッパー。
- 「死刑になるために殺人」← 反社会性パーソナリティではなく、うつ病の自殺願望がからんでいる。
終章 フロイト・アドラーから100年、より良く生きるための心理学
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抗うつ剤
- うつ病患者に不足している脳内のセロトニンやノルアドレナリンを増やす。
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うつ病の原因
- セロトニン不足ではなく、セロトニンを受け取る神経細胞のほうに異常が起きるのではないか、というのが現在の見立て。