2021年12月1日水曜日

『人新世の「資本論」』

斎藤 幸平 (著), 集英社 (2020/9/17)
  • 第1章 気候変動と帝国的生活様式
  • 第2章 気候ケインズ主義の限界
  • 第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
  • 第4章 「人新世」のマルクス
  • 第5章 加速主義という現実逃避
  • 第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
  • 第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
  • 第8章 気候正義という「梃子」
第1章 気候変動と帝国的生活様式
  • 先進国での豊かな生活は、後進国での「労働力搾取」や「自然資源収奪」のおかげ。

第2章 気候ケインズ主義の限界
  • 気候変動が進み過ぎたので、グリーン・ニューディールによって「気候変動対策」と「経済成長」を両立しようなんてムリ。

第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
  • 資本主義は価値増殖と資本蓄積のために経済成長を必須とするので、資本主義の下での「脱成長」はムリ。

第4章 「人新世」のマルクス
  • 『資本論』後のマスルクスは、平等で持続可能な脱成長型経済「脱成長コミュニズム」の考えに達していた。

第5章 加速主義という現実逃避
  • 危機を前にして、社会システムを変革しなくてはならないのに、テクノロジーで危機を乗り越える!なんていうのは現実逃避。

第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
  • 資本主義の本質は「希少性」。共有財産を解体し、私財化し、人工的に希少性を付与し、それを価値と呼び、市場で取引。
  • 価値増大が最優先の資本主義の下では、それを手に入れられない人が増える。
  • 資本主義: 土地の私有 → 投機 → 高騰 → 【欠乏】ホームレス増、家賃のために労働増
  • コミュニズム: 土地の協同的な管理 → 平等に分配 → 【潤沢さ】

第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
  • 以下により経済は減速するが、持続可能で豊かな生活を取り戻そう。
  • ①使用価値経済への転換 …貨幣価値よりも使用価値(水や空気など人々の欲求を満たす性質)。
  • ②労働時間の短縮    …使用価値を生まない意味のない仕事(マーケ、広告、コンサル、金融、保険など)はやめる。
  • ③画一的な分業の廃止  …労働をより創造的な、自己実現の活動に変えていく。
  • ④生産過程の民主化   …何を、どれだけ、どうやって生産するか、民主的に意思決定。
  • ⑤エッセンシャル・ワークの重視 …感情労働など労働集約型産業を重視。

第8章 気候正義という「梃子」
  • 「資本主義の超克」(経済)、「民主主義の刷新」(政治)、「社会の脱炭素化」(環境)により、社会システムの大転換を。

はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
  • 宗教 → SDGs
第1章 気候変動と帝国的生活様式
外部化社会
  • 代償を遠くに転嫁して、不可視化。
中核部 周辺部
先進国
(グローバル・ノース)
労働力の搾取
自然資源の収奪
後進国
(グローバル・サウス)
帝国的生活様式 生活条件の悪化

資本主義 人間 資本蓄積のための道具
自然 単なる掠奪の対象

オランダの誤謬
  • 先進国が、経済成長と技術発展によって、環境問題を解決したと思ってしまう。
  • ・・・実際は、環境問題の原因部分をグローバル・サウスに転嫁しているだけ。

3つの転嫁
技術的転嫁 ある問題を技術発展で解決したつもりが、その技術が別の問題を引き起こす。
空間的転嫁 周辺部からの略奪。
時間的転嫁 後世に転嫁。

資本主義の転覆
  • 帝国的生活様式の矛盾
    ↓ 可視化
    気候変動
    環境移民の流入
    ↓ 危機感・不安
    排外主義が勢力を強める

第2章 気候ケインズ主義の限界
気候ケインズ主義
  • グリーン・ニューディール
    • 再生エネルギーやEVを普及させるために、大型財政出動や公共投資、
  • 気候変動対策が新たな経済成長のチャンス。「最後の砦」。

デカップリング
  • 相対的、絶対的、十分に絶対的
  • 経済成長 ←→ 環境負荷増大
  • 経済成長↑ → 経済活動の規模↑ → 消費資源↑ → CO2排出↑

生産性の罠
  • 生産性を上げる

    失業者が増える

    雇用を守るため、経済規模を拡大せざるをえない
  • ↑ 経済成長が必須 → 資源消費が増大

ジェヴォンズのパラドクス
  • 新技術が消費量を増やしてしまう。

新技術 → 生産性向上 → 商品が安くなる → 消費が増える

  • 一部で相対的デカップリングができても、 そこで効率化で節約された分の資本や収入が、 エネルギー資源をより必要とする部門で使われてしまう。
  • 太陽光パネル → 電気代がうく → 旅行 → CO2増加

グリーン技術
  • 生産過程にまで目を向けると、それほどグリーンではない。
  • 生産の実態は不可視化され、問題は別のところに転嫁されている。
  • 先進国における気候変動対策
    • 石油 → 別の限りある資源(リチウム、コバルト)
    • リチウム、コバルトは、グローバルサウスでより一層激しく採掘・収奪されている。

第3章 資本主義システムでの脱成長を撃つ
ドーナツ経済/ケイト・ラワース
  • 公平を実現するための、資源やエネルギー消費の追加的な負荷は、ずっと低い。
  • あるレベルを越えると、経済成長と人々の生活の向上に明確な相関関係が見られなくなる。

  • ほとんどの国は、持続可能性を犠牲にすることで、社会的欲求を満たしている。
  • 経済成長しなくても、既存リソースをうまく(グローバルに)分配さえできれば、 社会は今以上に繁栄できる。

資本主義 = 際限のない運動
  • 価値増殖と資本蓄積のために、さらなる市場を開拓していくシステム。
  • 利潤を増やすための経済成長。
  • 環境への負荷は外部へ転嫁。
  • 自然と人間からの収奪。

第4章 「人新世」のマルクス
コモン
  • コモン = 社会的に人々に共有され、管理されるべき富。

市場原理主義 あらゆるものを商品化
ソ連型社会主義 あらゆるものを国有化
第三の道~コモン 水・電気・住居・医療・教育などを公共財として、自分たちで民主的に管理。

  • 社会全体にとって共通の財産として、国家のルールや市場的基準に任せずに、社会的に管理・運営する。
  • 専門家任せではなく、市民が民主的・水平的に共同管理に参加する。

マルクスにとってのコミュニズム
× 一党独裁、国営化
生産者たちが生産手段をコモンとして共同管理・運営する社会
人々が生産手段だけでなく、地球をコモンとして管理する社会。

  • アソシエーション
    • コモンが再建された社会。

一般的なマルクス像(『共産党宣言』の概要)
  • 資本の発展とともに多くの労働者たちが資本家たちによって、 酷く搾取されるようになり、格差が拡大する。
  • 資本家たちは競争に駆り立てられて、生産力を上昇させ、ますます多くの商品を生産するようになる。
  • だが、低賃金で搾取されている労働者たちは、それらの商品を買うことができない。
  • そのせいで、最終的には、過剰生産による恐慌が発生してしまう。
  • 恐慌による失業のせいで、より一層困窮した労働者の大群は団結し立ち上がり、 ついに社会主義革命を起こす。
  • 労働者たちは解放される。


  • 若きマルクス
    • 資本主義が早晩、経済恐慌をきっかけとした社会主義革命によって乗り越えられる!
  • マルクスの資本主義批判は、『資本論』以降に

マルクスの「進歩史観」
進歩史観 資本主義は、競争によってイノベーションを引き起こし、生産力を上げてくれる。
この生産力の上昇が、将来の社会で、みなが豊かで、自由な生活を送るための条件を準備してくれる。


生産力至上主義 資本主義のもとで生産力をどんどん高めていく。
→ 貧困問題も環境問題も解決。
→ 最終的には、人類の解放がもたらされる。
【近代化賛美の考え方】
ヨーロッパ中心主義 ○生産力が高い西欧が、歴史のより高い段階にいる。
○他のあらゆる地域も、西欧と同じように、資本主義のもとで近代化を進めなくてはならない。

物質代謝論
  • 『資本論』でのエコロジカルな理論的転換。
  • 「人間と自然の物質代謝」・・・人間と自然との循環的な相互作用
  • 人間は絶えず自然に働きかけ、さまざまなものを生産し、消費し、廃棄しながら、この惑星上で正を営んでいる。
  • 「労働」は、「人間と自然の物質代謝」を制御・媒介する、人間に特徴的な活動。

人間 ← 物質代謝 → 自然
労働

  • 資本は、「人間と自然の物質代謝」を撹乱する。
  • 資本は、人間も自然も徹底的に利用する。
    • → 人間を容赦なく長時間働かせる。 → 身体的・精神的疾患
    • → 自然の力や資源を世界中で収奪する。 → 自然資源の枯渇、生態系の破壊、現代の気候危機の根本的な原因
  • 「資本の無限の運動」と「自然のサイクル」は相容れない。

『資本論』以降のマルクス
資本主義と自然環境の関係に着目。
資本主義は技術革新によって、 物質代謝の亀裂をいろいろな方法で、 外部に転移しながら時間稼ぎする。
その転嫁によって、資本は「修復不可能な亀裂」を世界規模で深めていく。
最終的には資本主義も存続できなくなる。

エコ社会主義
  • 資本主義での生産力上昇を追求するのではなく、 先に別の経済システム(=社会主義)に移行して、 そのもとで持続可能な経済成長を求めるべきだ。
  • 社会主義へ至る経路は、西欧の発展モデル(資本主義)に限定されない。

ザスーリチ宛の手紙
  • 晩期マルクスの到達点。
  • 経済成長をしない循環型の定常型経済。
  • 平等で持続可能な脱成長型経済。
  • 経済成長しない共同体社会の安定性が、 持続可能で、平等な人間と自然の物質代謝を組織する。

経済成長 持続可能性
1840年代~
1850年代
生産力至上主義 『共産党宣言』
『インド評論』
×
1860年代 エコ社会主義 『資本論』
1870年代~
1880年代
脱成長コミュニズム 『ゴータ綱領批判』
「ザスーリチ宛の手紙」
×

コミュニズム
  • 貨幣や私有財産を増やすことを目指す個人主義的な生産

    「共同的富」を共同で管理する生産・・・コモン思想

第5章 加速主義という現実逃避
左派加速主義(Left Accelerationism)
  • 経済成長をますます加速させることにより、コミュニズムの実現を目指す。
  • 資本主義の技術革新の先にあるコミュニズムにおいては、 完全に持続可能な経済成長が可能になると主張する。

エコ近代主義
  • 原子力発電やNETを徹底的に使って、 地球を「運用管理」しようという思想。
  • 「自然との共存」ではなく、「自然を人類のために管理」。

資本の包摂ほうせつ
  • 私たちは資本主義に取り込まれ、生き物として無力になっている。
  • 包摂による、「構想」と「実行」の統一が解体。
    ⇒ 資本の専制
    構想 資本が独占
    実行 労働者
    (資本の命令を実行するだけ)
    ⇒ 資本への従属

    ⇒ 社会として生産力は上昇 / 個々人の生産能力は低下

新技術の加速の追求
  • 「構想」と「実行」の分離が深刻化。
  • 「資本の専制」が強化。
  • どの技術をどうやって使うかについて構想し、 意思決定権を持つのは、知識を独占する一握りの専門家と政治家だけになる。
  • 資本はそうした人々を取り込むだけでいい。
  • 【一部の専門家・政治家・資本が結託するトップダウン型の社会】
    • 中央集権型のトップダウン型
    • 民主主義の否定
    • 政治と近代の否定

技術というイデオロギー
  • 技術自体が現存システムの不合理さを隠すイデオロギー。
  • 夢の技術の華々しさ → 今まで通りの継続を正当化
  • 危機を前にして、まったく新しいライフスタイルを生み出し、 脱炭素社会を作り出す可能性を抑圧し、排除してしまう。
  • 技術というイデオロギーこそが、現代社会に蔓延する想像力の貧困の一因。

第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
資本主義 希少性 投資目的の土地売買

ホームレス
誰も住まない物件
家賃のための過労

希少な土地
コミュニズム 潤沢さ 投資目的の土地売買の禁止

潤沢さ

本源的蓄積
  • 【本源的蓄積】資本がコモンの潤沢さを解体し、人工的希少性を増大させていく過程。

  • 資本主義は、人々の生活をより貧しくすることによって成長してきた。

  • 共有財産
    • 好き勝手には使えない。
    • ルールを守っていれば、開かれた無償の財。
    • 人々は適度な手入れをする。
    • 利潤獲得目的ではないため、過度な自然への介入はない。

ローダーデールのパラドクス
  • 私財(private wealth)の増大は、公富(public wealth)の減少によって生じる。

  • 「私財」の増大 = 貨幣で測れる「国富」の増大
  • ⇒ 真の意味での国民にとっての富である公富(コモンズ)は減少。
  • ⇒ 国民は生活に必要なものを利用する権利を失い困窮。
  • 本当の豊かさは国富ではなく公富。

価値と使用価値の対立
使用価値 富。
人々の欲求を満たす性質。(空気や水など)
価値 財産。
貨幣で測られる。
市場経済においてしか存在しない。

  • 「価値」を増やしていくことが資本主義的生産にとっての最優先事項。

    「使用価値」は「価値」を実現するための手段におとしめられていく。

  • コモンズ
    • コモンズは万人にとっての使用価値。
    • 共同体はコモンズの独占的所有を禁止し、協同的な富として管理する。
    • コモンズは商品化されない。値段を付けることもできない。
    • コモンズは人々にとって無償で、潤沢。

  • 資本主義
    • 「囲い込み」でコモンズを解体。
    • 人工的に希少性を作り出し、市場が価格を付ける。
    • コモンズ → (+希少性) → 私的所有
    • 希少性の増大 = (商品としての)価値の増大
    • 価値が増大しても「使用価値」は変わらない。
    • 価値が増大すると、生活に必要な財を利用する機会が減少。困窮。

  • 価値と使用価値の対立
    • 「使用価値」を犠牲にした希少性の増大が私富を増やす。

商品の世界
  • 【貨幣の希少性】商品は溢れているが、お金がない。
  • 【絶対的貧困】労働者の代わりはいくらでもいる。

  • 負債を負うことで、人々は従順な労働者として、 つまり、資本主義の駒として仕えることを強制される。

  • 無限の労働 ←→ 無限の消費

    駆り立てるもの:
    ブランド化、広告・・・必要ないものに本来の価値以上の値段を付けて買わせる。

ラディカルな潤沢さ
  • コモンが目指すのは、 人工的希少性の領域を減らし、 消費主義・物質主義から決別した「ラディカルな潤沢さ」を増やすこと。
  • → 商品化された領域が減るのでGDPは減少(脱成長)
  • 希少性を本質とする資本主義の枠内で豊かになることを目指しても、 全員が豊かになることは不可能。
  • 貧しい理由
    • × 十分に生産してないから
    • ○ 資本主義が希少性を本質とするから

第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
  • 資本主義
    • 金儲け > 人命
    • 価値 > 使用価値
  • コミュニズム、参加型社会主義
    • 生活に必要なものを、自分たちで確保し、配分する民主的な方法。
    • 労働者による企業の「社会的所有」。
    • 労働者たちが自分たちで生産を「自治管理」「共同管理」。
    • 市民の自治と相互扶助の力を草の根から養うことで、持続可能な社会へと転換を試みる
  • ソ連型社会主義
    • 官僚や専門家が意思決定権や情報を独占。

人新世の資本論
①使用価値経済への転換 ⇒貨幣で測られる価値よりも使用価値(水や空気など人々の欲求を満たす性質)。
②労働時間の短縮 ⇒使用価値を生まない意味のない仕事(マーケティング、広告、コンサル、金融、保険など)はやめる。
③画一的な分業の廃止 ⇒労働をより創造的な、自己実現の活動に変えていく。
④生産過程の民主化 ⇒何を、どれだけ、どうやって生産するか、民主的に意思決定。
⑤エッセンシャル・ワークの重視 ⇒感情労働など労働集約型産業を重視。

第8章 気候正義という「梃子」
気候正義(climate justice)
  • 気候変動を引き起こしたのは先進国の富裕層だが、 その被害を受けるのは化石燃料をあまり使ってこなかった グローバル・サウスの人々と将来世代である。
    この不公正を解消し、気候変動を止めるべきだという認識。

経済 資本主義の超克 ⇒ 社会システムの大転換
(3.5%の人々が非暴力的な方法で本気で立ち上がると、社会が大きく変わる。)
政治 民主主義の刷新
環境 社会の脱炭素化
おわりに――歴史を終わらせないために

斎藤 幸平 (著), 集英社 (2020/9/17)