- 序章 アジアをハブとした新興国経済の潜在力に再注目
- 第1章 再評価される新興国資産
- 第2章 中国経済と人民元の行方
- 第3章 成長のダイナミズムが続くASEANとインド
- 第4章 新興国の国・地域別の投資戦略
- 第5章 新興国投資の魅力と実践
序章 アジアをハブとした新興国経済の潜在力に再注目
新興国株式や通貨が、2012〜2014年頃を契機に悪化した理由
- 米利上げ観測
- 政治情勢
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世界経済の構造的な変化
スロートレード状態(世界貿易量の伸び率がGDPの伸びを下回る)- サブプライム危機・欧州危機 → 先進国のバランスシート調整の後遺症 → 企業行動が萎縮
- 中国が「世界の工場」としての地位を維持できなくなった
- シェール革命、資源国の供給力アップ → コモディティスーパーサイクルの終焉
- 新興国でもバランスシート調整圧力が高まる
- 生産性向上策の歩みが遅い
- 地政学リスク、所得格差拡大 → 反グローバリズム、保護主義の高まり
新興国経済を中心とした世界経済の拡大は続く
- 人口動態
- 社会インフラの拡大
- 広域経済連携
- 技術革新による生産性向上
第1章 再評価される新興国資産
2000年代の実質GDP成長率=平均6.1%、その要因
- 中国のWTO加盟
- 欧米のクレジットバブル
- 資源価格の上昇
- 直接投資の増加 → 産業集積の高度化
- 各国間の自由貿易協定(FTA)の進展
- 中間所得層の増加
- アジア通貨危機後の対外債務の管理高度化
- 変動相場制への移行
2020年には再度5%成長に回復する見込み(★★★)
- 中国等アジアの新興国と欧州新興国の成長率は横ばいだが、
- ASEAN諸国・ラテンアメリカ・中東・サブサハラの成長が高まる。
2016年、なぜ新興国が再度脚光を浴び始めているのか(★★★)
-
プラス面
- 米国の慎重な利上げ
- ファンダメンタルズの強い新興国はドル建て債務の支払い可能性を高める
- 主要新興国のインフレ率は総じてインフレ目標を下回っており、景気刺激策の余地がある
- 下落基調にあったコモディティ市場が底入れしつつある
- 新興国株式は先進国株式対比バリュエーションでみれば割安圏にある
- 一部の主要新興国のなかで政治状況が落ち着きつつある
- 先進国においてマイナス金利が拡大するなか、新興国国債の利回りが魅力的になっている
- 新興国経済のサプライズ・インデックスが持ち直している
-
マイナス面
- 新興国通貨の上昇は輸出には逆風になる
- 先進国経済の低成長は、新興国が生産する製品の需要を鈍化させる
- 新興国の「総債務/名目GDP」比率は上昇しており、かつ半分以上の国において40%を超えている
4つのグループ
グループ | ファンダメンタルズ | 株価指数 | 国 |
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第1グループ | ○ | ○ | ブラジル |
第2グループ | ○ | × | メキシコ ロシア |
第3グループ | × | ○ | |
第4グループ | × | × |
第2章 中国経済と人民元の行方
中国の景気はなぜ悪くなったのか
- 2008年9月のリーマンショックへの対応策として4兆人民元(57兆円)の大型景気対策や行き過ぎた金融緩和が実施され、景気の過熱化を促したため、その反動から負の遺産として、過剰な設備や債務等の問題が浮上。
- 2012年には労働人口の減少が始まり、「ルイスの転換点」(農村部から都市部への農業労働力が不足に転じる)を迎えた。
潜在成長率 | ①労働投入量 | 労働人口の減少、ルイスの転換 → マイナス |
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②資本投入量 | 過剰設備・債務の解消、貯蓄率の低下 → 低下方向 |
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③全要素生産性 | 生産性が高い製造部門から低いサービス部門にシフト、技術移入によるキャッチアップ余地の縮小 → 低下方向 |
- → 持続的な経済発展を図るには改革の全面的な深化、成長モデルの転換が必要。
リスク
- 理財商品の損失が大きくなるのは、中国経済がハードランディングに陥った場合であり、それは考えにくいケース。
- 国内統治が難しい → 内政を優先 → 対外的にはネガティブな印象 → 政治・経済交流に悪影響
- 「新常態」への改革。習近平の第2期の政権固めのため、安定成長を優先し、改革を先送りするリスク。
- 「
未富先老 (豊かになる前に高齢化社会になる)」。高齢化の加速。
人民元安基調へ
-
人民元の対ドルレートの主な決定要因
-
米中金利差
- 米国は利上げ、中国は景気下押し圧力が根強い
-
経常収支対名目GDP比率
- 2007年のピーク(9.9%)から低下(3.9%)
-
外貨建て債務状況や政治・地政学リスク
- SDR構成通貨入りしたが、人民元の安定化を図る方針に変化なし
- 資本流出に対する規制
- トランプの保護主義政策
-
米中金利差
第3章 成長のダイナミズムが続くASEANとインド
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2015年12月、ASEAN経済共同体(AEC: ASEAN Economic Community, ASEAN: Association of South East Asian Nations)が発足。
- タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー
-
ASEAN成長の牽引役
- かつて: マレーシア、タイ
- これから: インドネシア、フィリピン、 CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)
- 自動車等の耐久消費財需要やインフラ投資が成長を牽引する。
ASEANはFTAの先進国
- ASEANは欧米や中国などの大国の貿易・経済政策動向をにらんで、輸出基地としての魅力を高めるべくFTAやAECの設立を通じて、市場の一本化や周辺国との経済連携を強化してきた。
- 「ASEAN+1」(ASEANとその他の国の間で結ばれた個別FTA)
TPP vs. RCEP
TPP |
Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement 環太平洋戦略的経済連携協定 米国と日本が中心。 |
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RCEP |
Regional Comprehensive Economic Partnership 東アジア地域包括的経済連携 米国を中心そしたTPPにあ対抗したい中国と、中国等のアジア市場を取り込みたい日本や韓国等が参加。 「ASEAN+1」の枠組みを広域化。 インドにとっては市場としてだけでなく、生産地としての魅力が高まるきっかけになる可能性がある。 |
- TPP、RCEP、FTAAPについて → 『トランプ解体新書』
中所得国の罠
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低所得国 → 中所得国
- 安価で豊富な労働力
- 海外からの直接投資の増加
- 農村から都市部への労働移動(都市化)
- 繊維等の低賃金・労働集約的な産業が輸出の牽引役
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中所得国の罠
- 周辺の低所得国に比べて輸出競争力が低下
- 新しい産業の育成が遅れる
- 成長が停滞
-
罠から抜け出すには
- 新たな産業への資本や労働のシフト
- 技術革新による新製品の開発
- 教育による人材の高度化
今後のアジア新興国の課題
- 生産年齢人口比率のピークアウトや高齢化による労働力不足
- 賃金上昇による輸出競争力の低下
- グローバルに競争力のある時刻資本の企業育成や技術革新の遅れ
地政学リスク
マレーシア |
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タイ |
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インドネシア |
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フィリピン |
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第4章 新興国の国・地域別の投資戦略
ASEAN
EC, EU |
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ASEAN, AC |
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AEC
- 中国やインドに対する危機感。
- 関税を撤廃し、ヒト(労働力)、モノ(貿易)、カネ(投資)の動きを自由化することでより活発な貿易を促進する。
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4つの柱
- 単一市場と生産基地
- 競争力のある経済地域
- 公平な経済発展
- グローバル経済への統合
ポスト BRICs |
インドネシア |
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タイ |
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フィリピン |
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ベトナム |
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経常収支 | 通貨 | |
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インドネシア | ||
タイ | ||
フィリピン | ||
ベトナム |
1980年代 |
韓国・台湾、続いてタイ・マレーシアが高成長を果たす。 中国も目覚ましい成長を示し始める。 |
1997年 |
アジア通貨危機。 各国の成長ペースはいったん鈍化。 |
2000年代 | インドネシア・フィリピン・インド・ベトナムが比較的高い成長をみせる。 |
2010年代以降 |
カンボジア・ラオス・ミャンマーでも成長ペースを高める(+6〜7%)。 ASEAN後発国においても経済発展の広がりがうかがえる。 |
2010年 | 2050年 | |||
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GDP | 世界のGDPに 占めるシェア |
シナリオ | GDP | 世界のGDPに 占めるシェア |
17兆ドル | 27% |
【楽観】 +6%の成長率が継続 |
148兆ドル | 51% |
【悲観】 中間所得国の罠 |
61兆ドル | 32% |
インド
-
ルピーは売られにくくなっている。
- 【経常収支GDP比のマイナス幅縮小】←シン前首相のもとで、石油補助金の削減、石油製品価格の自由化、金輸入関税; 原油価格下落、金価格下落
- 【金融政策に対する信認】←世界的に知名度の高いラグラム・ラジャン氏が中銀総裁に
- 【海外資金の流入】モディ政権による規制緩和、インフラ投資、税制改革
- 今後は、コモディティ・スーパーサイクル終了により、エネルギー輸入依存のインド経済にポジティブ
-
ルピーのボラティリティは他の新興国通貨よりも低い
- 柔軟な資本流出入規制の変更
- 海外投資家の国債保有が少ない
ブラジル
- 2018.10に大統領選。2017年は財政改革や景気回復により国民の支持を得る必要がある。
メキシコ
- 人口ボーナス期が2020年から2030年代後半まで続く。
-
2度の通貨危機
1982年 石油等の資源輸出に依存していたため、資源価格下落の影響を大きく受けた。 1994年 恒常的な貿易赤字・経常赤字
海外からの短期資金に依存する国際収支構造
国内政情不安と米国利上げ →資本流出いま 石油依存から脱却
輸出の8割は自動車・電気製品
世界国債インデックス(WGBI)に採用
ペニャニエト大統領のもと、エネルギー改革が進展(原油等の生産量回復を目指す)
ロシア
-
典型的な資源輸出国
- 輸出総額の6割が燃料・エネルギー関連製品
- 財政収支の4割が石油・ガス関連の税収
- 原油安・通貨安・経済制裁という三重苦がロシア経済を危機的な状況に追い込んだが、2016年に入ると、中国当局の経済対策への期待や米利上げ観測の後退、米国の原油生産量の減少、産油国の生産調整への期待等から原油価格は持ち直しに転じており、ロシア経済にも最悪期を脱する兆しが見られ始めた。
-
経済制裁の影響が大きいのは、資源開発と金融。
- 【資源開発】ロシアは資源の探索や掘削に関する技術が遅れている。北極海やシェール層の開発には欧米企業との連携が欠かせないが、米国は技術供与を禁止している。
- 【金融】ロシア企業の大型プロジェクトの資金調達を外国金融機関からの借入れや起債で賄うことが多い。インフラ整備案件への新規融資停止やロシア企業債券の購入禁止が採られている。
-
経済が危機的な状況にあるなかで、経常収支の黒字が維持されていることは強み。外貨準備高は十分にある。
↑
輸出が減少したが、ルーブル安や景気悪化により輸入も減少したため。 - ルーブル相場は原油価格との相関が極めて高い。
- 欧米諸国による経済制裁が解除されれば、投資資金が還流することが期待できる。
オーストラリア
- 1992年以降、24年間という非常に長期にわたる安定した経済成長。平均成長率は3.3%。
- 中国・アジアの高成長とともに資源ブームの恩恵を受けてきた。
- 中国景気の減速 + 原油価格下落 → 交易条件は大きく悪化
-
豪ドル相場は鉄鉱石の価格に連動する動き
- 鉄鉱石価格が底入れしたとしても、中国の供給過剰状態が解消されていない現状を考えれば、今後は上昇しづらい。
- 商品価格の下落とともに豪ドルも大幅に下落したが、購買力平価から見ると値頃感がでてきている。
第5章 新興国投資の魅力と実践
新興国からの資金流出の背景と今後のポイント
背景 | ||
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新興国通貨が軟調 2011年後半 〜 2016年前半 |
【2011年〜2012年】 ・中国の成長鈍化懸念 ・欧州債務問題 |
投資家のリスク回避姿勢が強まる |
【2013年5月】 ・米国の量的金融緩和(QE3)の縮小観測 (バーナンキ・ショック) |
経常赤字や対外投資ポジションの赤字が大きい国を中心に下落圧力が強まる | |
【2014年後半】 ・原油価格の急落 |
資源国経済や財政の重しとなる | |
【2015年】 ・米国の利上げ観測 |
新興国に対する投資資金が流出 |
-
新興国のマネーフローをみる上で、債券投資の影響が大きくなっている。
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アジアを中心に新興国債券市場が急拡大
2008年末から2016年3月末の間で債券残高が・・・中国 2.9倍 マレーシア 1.8倍 タイ 2.1倍 インドネシア 2.1倍 日本 2.6%増 -
拡大要因
中国が4兆元の景気刺激策のために国債や不動産・建設・インフラ向けに社債を大量に発行した。 原油や鉄鉱石等の資源開発投資のため、新興国の資源関連企業の債券発行が増加した。 アジアを中心に製造業やサービス業の債券発行が増加した。
-
アジアを中心に新興国債券市場が急拡大
- アジア株式市場はASEANやインドを中心に成長余地が大きい。
ファンダメンタルズに基づいた有望な投資国を探すには
-
市場を理解するポイント
通貨制度 ペッグ制、管理変動相場制、変動相場制、市場介入 資本規制 相場が大きく変動したときにどのような規制や介入を行なってきたか 政治体制 経済発展するために有効な経済政策がとられ、海外からの資金流入につながるかどうか -
経済指標
実質GDP成長率 IMFの「世界経済見通し(World Economic Outlook)」 実質金利 【低】名目金利が高くとも、インフレの上昇を制御できていない
【高】インフレの制御に前向き(通貨価値の上昇余地が大きい)経常収支 ①モノやサービスの取引を表す「貿易・サービス収支」
+
②賃金や利子等の受払いを表す「第1次所得収支」
+
③対価をともなわない贈与・食料・医薬品等の「無償援助」
+
④海外で働く人々の本国への送金や海外に留学している子供への送金等の「第2次所得収支」
実需にともなう外為取引(貿易・サービス収支等)ととtもに、その国が海外から受け取る所得から海外への支払いを差し引いた純所得ともいうべきもの -
【購買力平価】
インフレ率が高い国は購買力が低下した分だけ為替相場も減価するはずだという考え -
【実効為替レート】
貿易取引のある国それぞれとの間の為替レートを、各国との貿易ウェイトにより加重平均したもの
購買力平価 vs 金利差
古典派理論 | 近代派理論 |
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フロー・アプローチ | ストック・アプローチ |
一定期間の為替の需給を国際収支等の取引高(フロー)から捉える方法。 | ある一時点の金融資産の残高(ストック)をベースに為替の需給を捉える方法。 |
為替レートは以下の3つの取引によって生じる為替フローの需給で決まる。 ①モノやサービスの貿易動向を示す経常収支 ②資本の流出入の動向である金融収支 ③政府や中央銀行による公的介入 |
変動相場制への移行等により、国際的な資本移動が自由化された世界において、国を超えた投資資金の流れが大きくなっている。 この流れを捉えなければ為替相場を見極めることはできない。 金融市場でどの資産がどのように選択されるかといった相場の決定要因となるのは金利差や期待収益率である。 → グローバルに資金が動く時代の世の中では、投資資金は少しでも金利の高い方に向かう。 |
購買力平価説 国際収支説 為替真理説 |
金利差 |
モノの輸出入代金の支払い等に代表される経常取引に比べ、証券投資等の国際的な資本取引は瞬時に取引が成立するため、為替への反応速度も速く、短期間に需給の均衡が成立する。 短期の為替相場決定理論はストック面からのアプローチすることが主流となっている。 |
通貨選択のポイント
成長率格差 | 世界中の緩和政策が生みだす過剰流動性はより高い収益率を求めてより高成長な国に向かう。 |
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金利差や インフレ動向 |
いくら高成長・高金利でも、それを上回るインフレでは意味がない。 |
地政学リスク | 政権基盤、政府と軍との関係、政府が指向する国家の方向性、世論の支持率、近隣諸国との関係。 |
財政収支 | リスクオフになれば財政基盤の弱い国の通貨は売りが強まる。 |
貿易収支 | 貿易収支は基幹産業や生活様式に関係しており、一朝一夕には変わらないため、貿易収支を通じた通貨の売り・買いのフローは継続的に為替レートに影響を及ぼす。 |
経済的に関係の 深い国や地域 |
メキシコにとっての米国、トルコにとってのユーロ圏とアジア諸国、etc。 |
スコアリング(2015年)
指標 | 2〜2.99 | 3〜3.99 | |
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リスクや脆弱性 |
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インド ブラジル メキシコ トルコ 南アフリカ |
中国 インドネシア マレーシア フィリピン タイ ベトナム ロシア |
成長基盤 |
|
ブラジル メキシコ ロシア トルコ |
中国 インド インドネシア マレーシア フィリピン タイ ベトナム 南アフリカ |
中国 | ・労働人口の減少 |
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フィリピン |
・中国との南シナ問題 ・ドゥテルテ大統領のガバナンス |
ASEAN諸国 | ・自由貿易の枠組み拡大 |
インド |
・財政収支・経常収支の赤字 →改善の動き ・高インフレ →商品市況の下落により沈静化 ・モディ政権の経済改革 ・RCEP |
ブラジル |
コモディティ・サイクルの終了にともなう経済構造の転換を進められるか 政治の安定性確保 |
ロシア |
MSCI Emerging Market Index - Financial Times
新興国株(EEM)、米国株SP500(^GSPC)、日本株(円建て)(^N255)、日本株(ドル建て)(^EWJ) - Yahoo! Finance