- はじめに/おわりに
- 金融とテクノロジーの表舞台と裏舞台
- 金融市場はロボ・トレーダーだらけ
- 今、ヘッジファンドは何を考えているのか?
- 資産運用では人はロボットに勝てない
- 世界を変える人工知能の進化
- ロボットに奪われる金融の仕事
- 金融ロボット後進国、日本の危機
- 表舞台と裏舞台の両方から変わる金融界
はじめに/おわりに
- 人工知能によるインパクトを一番最初に、そして一番大きく受けるのが金融業界。
- すでに、金融市場はロボ・トレーダーの独壇場。
- ヘッジファンドは、IBM・Google・Appleなどから人工知能のトップ技術者を引き抜いている。
- トップレベルの人工知能の研究者が働いているのは、有名企業ではなく、報道されることのない「裏舞台」であるヘッジファンド。
- 市場取引以外では、資産運用アドバイスや信用リスク分析。
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日本の金融機関は太刀打ち出来ない。理由:
- 護送船団時代に形成された体質
- 数理的センスの欠如
- 経験と勘を重視するという日本人の特性
- 破壊的なテクノロジーが一部の企業やファンドに独占されるおそれがある。
金融とテクノロジーの表舞台と裏舞台
- 日本のFintech:インターネットを通じた個人や中小企業向けの便利なサービス
- 海外:金融業の本業を侵食し始めている。銀行や証券の高度なロボット化が進んでいる。
- 日本が後れをとっているのは、金融や市場をシステマチックに運営するという面。
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Fintechのはじまり
- コンサルティング会社による企画:「金融サービス分野で先進テクノロジーを活用した商品を開発する若い企業をサポートする」
- リーマンショック後の混乱が残っていた2010年。新しい規制で商売がやりにくくなっていた。
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2012年、JOBS法が成立。(Jumpstart Our Business Startups Act)
- 株式上場の規制緩和
- クラウドファンディングに関する規制緩和
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レンディング・クラブ
- ソーシャル・レンディング。オンライン融資仲介。
- 究極の直接金融。
- 銀行や証券会社の本業の商売を奪う可能性があるビジネスモデル。
- 貸出金の回収業務(サービシング)も行っている。
- 利用しているテクノロジーは高度ではない。
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人工知能とヘッジファンド
- ブリッジウォーター(レイ・ダリオ)は2012年にIBM人工知能チームのデービッド・フェルッチを引き抜く。
- 閉ざされた世界で人工知能の研究が進められている。
金融市場はロボ・トレーダーだらけ
フラッシュ・クラッシュ
- 2010年5月6日
- 異例の大口売りでS&P先物が下落。それを超高速取引(HFT)が加速。
超高速ロボ・トレーダーの戦略
裁定取引 |
市場に一時的に発生する歪みを利用し、無リスクで安く買い、高く売る戦略。 超高速のスピードを活かした裁定取引をローレイテンシー(低遅延時間)取引という。 |
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マーケットメイク |
市場の動きに連動して継続的に売りと買いの価格提示をすること。 売りと買いの売買幅や、マーケットメーカーに手数料を支払う取引所からの収入をベースにする。 ポジションの保有時間は極力少なくするのが原則。 |
イベント戦略 | 経済指標やニュースの発表後の短期的な相場の動きを予想し、超高速取引でポジション・メイクする戦略。 |
ティッカー・テープ取引 |
価格の提示履歴(板情報)から将来の価格提示を予想すること。 大口オーダーの執行には、ある程度継続的に市場にアクセスする必要があるが、そうした注文が出された場合の価格の提示パターンを認識し、先回りして利益を上げる。 |
超高速取引業者
ゲッコー(GETCO)
- 非上場。
- 超高速取引の最大手。世界の50以上の取引所で展開。
バーチュ・ファイナンシャル(Virtu Financial)
- 2015年に上場。
- 2009年から2013年までの5年間に取引を行なった1238日のうち、損失が出たのはたった1日だけ。
- 2015年のトレード収入は5億ドル。
- 世界30ヵ国の200を超える取引所で1万銘柄以上の証券の価格の提示をしている。
為替市場もロボトレーダーだらけ
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現在は、電子取引ネットワーク(ECN)と呼ばれる私設取引所での取引がメイン。
- カレネックス(Curenex)
- ホットスポットFX
- ECNの発展により、それまで銀行が主導権を握っていた為替市場に、超高層取引業者やヘッジファンドが参入。
ヘッジファンドによるロボ・マーケットメイク業務への本格参入
シタデル(citadel)
- 株式や為替だけでなく、債券や金利スワップのマーケットメイク業務にも手を広げる。
- 金利市場への参入は衝撃的。 金利スッワップや通過スワップは取引所を通じないで行なう店頭デリバティブの代表的な商品。 店頭デリバティブは銀行や証券会社の専売特許の分野だった。
- 数理的な分析を重んじるクオンツ・ファンド。
金融機関が市場の主役ではなくなる
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理由
- 市場取引が電子取引で行われるようになった。
- リーマンショック後に導入された厳しい金融規制によって、金融機関の店頭デリバティブなどに対する優位性が失われた。
- リーマンショックで激減したクレジット・デリバティブの取引が、最近活気づいている。主役は金融機関ではなく資産運用会社やヘッジファンド。
今、ヘッジファンドは何を考えているのか
ヘッジファンドの代表的な取引スタイル
グローバル ・マクロ |
世界のマクロ経済状況などなどにフォーカス。 |
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レラティブ ・バリュー |
リスクや性質が似ている2つの商品間に価格差があるとき、割安な方を買い、割高の方を空売りする。 |
ロング ・ショート |
株を使ったレラティブ・バリュー取引。 同じ業種の株の買いと売りを同時に行なって、市場全体の変動ファクターをヘッジする。 |
転換社債裁定 | 転換社債に組み込まれている株のコール・オプションがしばしば割安になることを利用した戦略。 |
イベント ・ドリブン |
買収・スピンオフ・破綻などのイベント時の株価の動きをターゲットにした投資。 破綻した企業の株や債券を割安に購入する戦略をディストレストという。 |
LTCMの破綻
- レラティブ・バリュー戦略。
- 破綻直前には、ダイレクション取引という伝統的なリスク・テイクに近いポジションを大幅に増やしていた。
- LTCMの失敗は、レラティブ・バリュー戦略自体の失敗ではなく、レバレッジの掛け過ぎや、本来のスタイルに反するようなポジションを取ったのが原因。
クオンツ・ファンドの旺盛
- 投資判断を人間の勘や経験ではなく、数理・統計的な理論やモデルによる価格分析を重視する。
- クオンツ・ファンドが目立たないのは、投資戦略がわかりにくく、カリスマ投資家の影響力あるコメントも無縁のため。
秘密のベールに隠された伝説のヘッジファンド「ルネッサンス・テクノロジーズ」
- 創業者は天才的な数学者にしてパターン認識と暗号解読の専門家であるジェームズ・シモンズ氏
- 2014年までの20年間の平均リターンが35%。リーマン・ショック時は98%。
- 暗号解読技術を市場に応用。
世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター」
- 創業者はレイ・ダリオ。
- 2012年、IBMワトソンの開発を率いていたビッド・フェルッチ氏を引き抜く。
ビッグデータと人工知能を使い急成長する「ツーシグマ」
- 2015年10月、グーグルの研究部門のトップを務めていた人工知能の研究者であるアルフレッド・スペクター氏を引き抜く。
人工知能を使った長期運用を試みる「リベリオン・リサーチ」
- 株価に影響を与えるファクターを機械学習で探り出し、機械が投資判断を決める。
資産運用では人はロボットに勝てない
ロボ・アドバイザー
- ロボ・アドバイザーのパイオニア:ベターメント社、ライバル:ウェルスフロント社
- 感情や不果実な記憶に左右される人間より、ロボットのほうが遥かに安定感がある。
- 資産売却に伴う利益と損失のタイミングを調整し、損失は利益と同じ会計年度で相殺して余計な税金が発生しないようにするサービス。
- ETFを使って運用。
- ポートフォリオ構築のやり方は大手金融機関投資家が年金運用などで行なう運用とほとんど同じ。
- 人工知能を使って個人の口座の動きを観察し、より適切なアドバイスを。
スマート・ベータ
- いままで・・・CAPM理論では加重平均からなるポートフォリオが最適とされていた。
- 1970年・・・ユージン・ファーマ氏が効率的市場仮説を発表
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1973年・・・ユージン・ファーマ氏とケネス・フレンチ氏が3ファクター・モデルを提唱
- CAPM理論のベータ
- 小型株のアノマリー
- バリュー株のアノマリー
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数年前・・・スマート・ベータのブーム
- アノマリーをさらに賢く利用。
- 人間によるアクティブ運用を機械的に。
- これから・・・アノマリー探しにビッグデータを使うようになる。
世界を変える人工知能の進化
ロボットに奪われる金融の仕事
- ビッグデータ時代の信用リスク分析は、企業のリスク分析よりも個人の住宅ローンやクレジットカードの信用リスク分析のほうがその有用性が高い。
- P2Pレンディング(レンディング・クラブやソフィ)でも個人の信用リスク評価が重要。
- 今後10年間で、銀行の支店は30〜80%削減される。
- BISは、金融界のみならず中央銀行の政策や、経済理論そのものもビッグデータによって変化すると考え始めている。
- 新しくタイムリーな経済指標や洞察によって、新しい経済理論を生み出すかもしれない。
金融ロボット後進国、日本の危機
- 日本の金融機関の文系出身の経営者にとって、キー・テクノロジーのなかで理解可能だったのが仮想通貨に使われたブロックチェーンぐらいだったのでは。
- 金融機関の経営も含めた日本社会は、ヘッジファンドや超高速ロボ・トレーダーのような裏舞台の実情に疎すぎる。
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日本人のメンタリティ
- 自分の生活をするのに十二分のお金があれば満足してしまう。兆円単位を運用するようなファンドを作ろうとする野心がほとんどない。
- 世界最高の人工知能の研究者をスカウトして最高のロボ・トレーダーを作り上げようという発想自体ない。
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護送船団方式
- 大蔵省が、各金融機関を手取り足取り指導。
- 業界の垣根を高くして、異業種や異業態への相互参入を認めない。
- 競争制限に伴う資産配分の非効率化
- 経営責任の不透明化
- 規制レントの存在(レント=超過利潤)
- イノベーション能力の衰退
- アメリカでは、統計的な分析からパターンを読み取りスコア化するという文化が根づいている。その延長線上にビックデータや機械学習の利用がある。日本は信用スコアの仕組みがなく、年収・勤務先・勤続年数だけで評価している。
表舞台と裏舞台の両方から変わる金融界
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演繹から帰納へ
- 20世紀まで:人間が設定した知識やルールから出発して演繹的に解を導く。
- 機械学習:機械がデータから帰納的に解を導き、学習を進める。
- 経済学やファイナンス理論は、過去の限定的なデータを限定的な能力の分析手法を使って確立。ビッグデータ分析の向上は、経済学やファイナンス理論を大幅に書き換える可能性がある。
- 経験と勘に頼る時代:金融機関ごとに一定の個性が発揮された。
- ビッグデータの機械学習:各社の個性の価値が失われる。公共的な役割が期待される。
- 金融という仕事は、お金の価値という単一の尺度しかない点が、人工知能による分析と相性が良い。ゲームといっしょ。