2017年10月29日日曜日

『反脆弱性』

  • プロローグ
  • 第1部 反脆(はんもろ)さとは
    • 第1章 ダモクレスとヒュドラーの間(はざま)で
    • 第2章 過剰補償と過剰反応はどこにでもある
    • 第3章 ネコと洗濯機
    • 第4章 私が死ねば、誰かが強くなる
  • 第2部 現代性と、反脆さの否定
    • 第5章 青空市(スーク)とオフィス・ビル
    • 第6章 ランダム性は(ちょっとなら)すばらしい!
    • 第7章 浅はかな干渉――医原病
    • 第8章 予測は現代性の生みの子――ブラック・スワンの世界へ
  • 第3部 予測無用の世界観
    • 第9章 デブのトニーとフラジリスタたち
    • 第10章 セネカの処世術
    • 第11章 ロック・スターと10パーセント浮気する――バーベル戦略
  • 第4部 オプション性、技術、そして反脆さの知性
    • 第12章 タレスの甘いぶどう――オプション性
    • 第13章 鳥に飛び方を教える――ソビエト=ハーバード流の錯覚
    • 第14章 ふたつが“同じもの"じゃないとき
    • 第15章 敗者が綴る歴史――試行錯誤の汚名をすすぐ
    • 第16章 無秩序の教訓
    • 第17章 デブのトニー、ソクラテスと相対(あいたい)す
  • 第5部 あれも非線形、これも非線形
    • 第18章 1個の大石(おおいし)と1000個の小石の違いについて
    • 第19章 賢者の石とその逆
  • 第6部 否定の道
    • 第20章 時(とき)と脆さ
    • 第21章 医学、凸性、不透明性
    • 第22章 ほどほどに長生きする――「引き算」の力
  • 第7部 脆さと反脆さの倫理
  • 第23章 身銭を切る――他人の犠牲と引き換えに得る反脆さとオプション性
  • 第24章 倫理を職業に合わせる――自由と自立
  • 第25章 結論
  • 用語集
プロローグ
反脆い、反脆弱性(antifragile)
  • 衝撃を利益に変える。
  • 変動性・ランダム性・無秩序・ストレスにさらられると成長・繁栄する。
  • 冒険・リスク・不確実性を愛する。
  • 耐久力・頑健さを超越する。
  • 予測に頼らない。
  • ランダムな事象によるダウンサイド(潜在的損失)よりもアップサイド(潜在的利益)のほうが大きい。
  • 私たちがこうして現世に生きているのは、「耐久性」とかいう軟弱な概念のおかげではない。一部の人たちが貪欲にリスクを冒し、失敗を繰り返してきたおかげ。
  • 巨大なブラック・スワンを予測しようとするよりも、何かが変動性で害をこうむるかどうか、つまり脆いかどうかを理解するほうが、ずっと簡単。
ブラックスワン問題
  • 重大で希少な事象のリスクを計算したり、その発生を予測したりすることはできないという事実。
七面鳥
  • ブラックスワンの予測に失敗し、不意を衝かれて、被害を受けた人たち。
フラジリスタ(fragilista)
  • 脆さを生みだす連中。
無秩序一家
  • 脆さや反脆さは、変動性に関連する何かに対するエクスポージャーから、損失や利益を受ける可能性があることを意味する。
  • 「何か」とは・・・
    • 不確実性
    • 変化
    • 不十分で不完全な知識
    • 偶然
    • 渾沌こんとん
    • 変動性
    • 無秩序
    • エントロピー
    • 未知のもの
    • ランダム性
    • 混乱
    • ストレス
    • 間違い
    • 結果のばらつき
    • 似非知識
三つ組トライアド
  • 3つの性質に沿ってとらえた万物の世界地図。
脆弱平穏を求める。
頑健何事にも動じない。
反脆弱無秩序を成長の糧にする。

脆弱 頑健 反脆弱
ブラック・スワン 負のブラックスワンへのエクスポージャー 正のブラックスワンへのエクスポージャー
企業 ニューヨーク:銀行システム シリコンバレー:「早めに失敗しろ」「バカであれ」
生物・経済のシステム 効率化、最適化 冗長性 縮退(機能的な冗長性)
間違い 間違いを嫌う 間違いは単なる情報 間違いを愛する(犯す間違いは小さいので)
不可逆的で巨大な(但し、まれな)間違い、吹っ飛び 可逆的で小さな間違い
科学、技術 目的型の研究 日和見ひよりみ)的な研究
(定まった考えを持たず、形勢を見て有利なほうにつこうとすること)
確率論的ないじくり回しtinkering
事象とエクスポージャーの関係 事象を調べ、そのリスクや統計学的性質を評価する 事象に対するエクスポージャーや、エクスポージャーの統計学的性質を調べる 事象に対するエクスポージャーを修正する
科学 理論 現象学 ヒューリスティック、実践的なコツ
人体 沈静化、萎縮、老化、サルコペニア(加齢や疾患により筋肉量が減少すること) 耐毒化、回復 ホルミシス(ある物質が高濃度あるいは大量に用いられた場合には有害であるのに、低濃度あるいは微量に用いられれば逆に有益な作用をもたらす現象)、肥大
システム ランダム性の根源の集中 ランダム性の根源の分散
数学(関数)
※凹関数の形:∩
※凸関数の形:∪
非線形で凹、または凹+凸 線形、または凸+凹 非線形で凸
数学(確率) 左に裾を引いている
(負に歪んでいる)
変動性ボラティリティが低い 右に裾を引いている
(正に歪んでいる)
オプション取引 ボラティリティ、ガンマ、ベガをショート ボラティリティ対してフラット ボラティリティ、ガンマ、ベガをロング
知識 明示的 暗黙的 暗黙的+凸性
認識論 正しいか否か カモか否か
人生と考え方 観光客(人間的な意味と知的な意味の両方) 膨大な蔵書を持つ遊び人
金銭的な存在 企業の従業員、じらせ続ける階級 歯科医、皮膚科医、ニッチ・ワーカー、最低賃金の労働者 タクシー運転手、職人、売春婦、ファック・ユー・マネー(給料を気にせずに好きな仕事を撰べるくらいの財産を持っていること)
学習 教室 実生活、苦難から学ぶ 実生活+蔵書
政治体制 国民国家、中央集権 都市国家の集合体、分権化
社会システム イデオロギー 神話
ポスト農業時代の近代社会 遊牧民族、狩猟採集民族
知識 学問 専門知識 博学
科学 理論 現象学 エビデンスベースの現象学
精神衛生 心的外傷後ストレス 心的外傷後成長
意思決定 モデルベースの確率論的な意思決定 ヒューリスティックベースの意思決定 凸なヒューリスティック
思想家 プラトン、アリストテレス 初期のストア哲学者、ウィトゲンシュタイン 古代ローマのストア哲学者、ニーチェ、ヘーゲル
経済生活 似非経済学者の崇拝 人類学者 宗教
経済生活への影響 官僚 起業家
評価(職業) 学者、企業幹部、教皇、政治家 郵便局員、トラック運転手、車掌 芸術家、作家
評価(階級) 中流階級 最低賃金の労働者 自由人、貴族、世襲の資産家
医療 「肯定の道」
足し算的な治療(投薬)
「否定の道」
引き算的な治療(タバコや炭水化物の摂取の中止)
哲学、科学 合理主義 経験主義 引き算的な懐疑的経験主義
分離的 総合的
金融 ショート・オプション ロング・オプション
知識 実証的科学 規範的科学 芸術
ストレス 慢性的なストレス 急激なストレスと回復
意思決定 作為 不作為(「機会の逸失」)
文学 電子書籍 紙の書籍 口承
ビジネス 産業 小企業 職人
金融 債務 自己資本 ベンチャー・キャピタル
公的債務 民間債務(救済なし) 転換社債
全般 大きいもの 小さいが特化しているもの 小さいが特化していないもの
一峰性いっぽうせい(single peak) バーベル
リスクテイク マーコウィッツ ケリー基準 有限の賭けを用いたケリー基準
金融 銀行、似非経済学者が経営するヘッジファンド ヘッジファンド(一部) ヘッジファンド(一部)
教育 教育ママ 街中での生活 バーベル:育児の本+街中でのケンカ
肉体トレーニング 体系的なスポーツ、ジムのマシン 街中でのケンカ
第1部 反脆さとは
第1章 ダモクレスとヒュドラーの間で
  • 「正」の反対は「無」ではなく、「負」である。
  • <「脆い」の反対は「脆くない」「頑丈」ではなく、「反脆い」である。
  • 衝撃や乱暴な扱いを受けても「壊れない」ではなく、かえってプラスになる。
  • 「青」という言葉が存在しない社会 = 生物学的な意味ではなく、文化的な意味での色盲。
  • 物語を作るには「青」という言葉が必要だが、行動するには不要。
  • 私たちは、生物学的な意味ではなく文化的な意味で、「反脆さ」に対して盲目。
耐毒化(ミトリダート法)、ホルミシス
  • 【耐毒化】少量の物資にさらされた結果、もっと多くの量への免疫を徐々に身につけていく現象。
  • 【ホルミシス】少量の有害物質が生物にとって薬の役割を果たし、効能をもたらす現象。
  • システムから貴重なストレスを取り除くのは、よいこととはかぎらない。むしろ害になることもある。
領域依存
  • ある概念をひとつの領域では理解できるのに、別の領域になるととたんに理解できなくなること。
  • (例)ポーターに荷物を運ばせている人が、ジムでウエイトを持ち上げている。
  • 「耐毒化」「ホルミシス」も医学界では知られているが、社会経済生活では見逃されている。
第2章 過剰補償と過剰反応はどこにでもある
心的外傷後成長、イノベーション
  • 「心的外傷後ストレス障害」の逆。
  • 過去の出来事で心に傷を負った人が、それまでの自分より強くなる現象。
  • 失敗への過剰反応で巨大なエネルギーが解き放たれたとき、イノベーションが生まれる
    • イノベーションは、お役所の助成、ビジネススクールの授業、コンサルタントの助言などからは生まれない。
    • 無学の技術者や起業家が技術の躍進に果たしてきた貢献は、不釣り合いなほど大きい。
ルクレティウス問題
  • 愚か者は自分が見たいちばん高い山を、世界最高峰だと信じる。
  • 私たちは人生の中で見聞きした最大の物体を、この世に存在する最大の物体だと思い込む。それを何千年と繰り返している。
  • 「最悪の出来事」というのは、起きた時点では、当時の最悪の出来事よりも悪い出来事だった。
  • フクシマの原子炉は過去最悪の地震に耐えるように設計されていたが、もっと深刻なケースを想定しなかった。 「過去最悪の地震も、それが起こった当時は前例のない『青天の霹靂』だった」とは考えなかった
適応度
  • 特定の環境の過去の状態に完璧に順応している状態。
  • 反脆さという概念(もっと強いストレスが存在する環境を予期している状態)が抜け落ちている。
反脆いもの
抑えきれない愛
(や憎悪)
○愛は、距離・家柄の違い・意識的な抑圧といった障害に過剰反応し、過剰補償する。
情報 ○情報を広める努力よりも、情報を壊す努力のほうが、情報にとっては糧になる。
○「誰にも言わないで」と言えば情報は広がる。
本・思想 ○批判を糧にする。
禁書 ○禁止命令に対して反脆い。
批判そのもの・
炎上商法
○人を怒らせてその反応を利益に変える。
批判を耐えきることさえできれば、中傷は大きなプラスになる。
○「お前にはがっかりだ。お前の悪い噂がいっさい聞こえてこない。嫉妬されないのは無能の証だ。」
批判には値しても批判する価値のない人なんていくらでもいるのに、なんであなたが選ばれたのか?
○ネット時代、評判をコントロールするのは不可能。批判に弱い仕事などする価値がないし、批判をコントロールしようとしてはいけない。
第3章 ネコと洗濯機
老化
  • 人間の身体は、一定限度までであれば、ストレスがプラスに働く。
  • 無機物は、ストレスがかかると、物質の披露や破壊につながる。
  • 自己修復ができなくなる原因は「不適応」。ストレスが少なすぎるか、ストレスとストレスの間の回復時間が短すぎること。
  • 「老化」=「不適応」+「加齢」。「不適応」は避けられる。
  • 自然環境では、人間は老化しないまま死ぬ。現代人の血圧指標は時間とともに悪化するが、狩猟採集民族は人生末期まで変化しない。
  • 人工的な老化は、体内の反脆さを抑えこむことで生まれている。
複雑系
  • 生物:非生物 = 複雑系:非複雑系
  • 複雑系では相互依存性が大きいので、生態学の観点で考える必要がある。
  • 相互作用する要素が集まってできている複雑系の核心=「情報がストレスを通じて構成要素へと運ばれるということ」
  • 因果の不透明性・非線形性
    • 予測を難しくする。
  • 人間は慢性的なストレスよりも急激なストレスのほうがうまく対処できる。急激なストレスのあとに十分な回復時間が必要。
機械・非複雑系 有機体・複雑系
継続的な修理やメンテナンスが必要 自己修復
ランダム性を嫌う ランダム性(小さな変化)を好む
回復が不要 ストレス後の回復が必要
相互依存性がほとんどない 相互依存性が高い
ストレスは物質疲労のもと 「ストレスの欠如」は退化のもと
使うほど老化(摩耗・破壊) 使わないほど老化
衝撃に対する過小補償 衝撃に対する過剰補償
時がもたらすのは老化のみ 時がもたらすのは加齢と老化
観光客化
  • 人間を機械的で単純な反応を返す、マニュアル付きの洗濯機のようなものとして扱う、現代生活のひとつの側面を指す。
  • 観光客が冒険家の対極にある。観光客化は人生の対極にある。
  • 観光客化により、現代人は、休暇中でも囚われの生活を送らざるをえなくなる。
第4章 私が死ねば、誰かが強くなる
  • システム全体を反脆くするためには、システム内部に脆い部分が必要。
  • 失敗による利益は、集団全体へと移転される。
  • 遺伝子単位では、ホルミシスとは異なり、ストレスを受けて強くなるわけではない。むしろ死ぬ。
  • 個々の生物は比較的脆くても、遺伝子プールは衝撃を逆手に取り、適応度を高める。
  • 進化は、ストレス・ランダム性・不確実性・無秩序を好む。
  • 生物に寿命を設けて、世代間で修正を行なうようにしてやれば、未来の状況を予測する必要はない。
ホルミシス 個々の生物が自分自身への直接的な危害から利益を得る。
進化 個々の生物が危害を受けて死ぬと、その利益が生き残った個体や次世代に受け継がれる。
階層構造、フラクタルな自己相似性
  • 【自然界】生物の競争 > 細胞の競争 > タンパク質の競争
  • 【経済界】経済全体が反脆く進化するためには、個々の企業が脆く、破綻の可能性を持っていることが欠かせない。
  • 上位の反脆さを実現するには、下位の反脆さが必要。
  • 経済全体が企業・個人に求めているのは、生き残ることではなく、勝算に目が眩んで、とんでもないリスクを冒すこと。自信過剰を求めている。
  • 政府の企業救済は間違い。誰かが破綻してもほかの人々が巻き添えを食わないシステムを構築することが重要。
  • ニーチェ「死に至らぬ経験は、私を強くする」
    • 対毒性・ホルミシス。
    • 「死に至らなかった経験が私を強くしたのではなく、私が他人よりも強いからこそ死なずにすんだのだ。しかし、ほかの人たちが死んだので、弱者はいなくり、平均的に見れば集団は前よりも強くなっている」
  • 生き残った集団は元の集団より強い。個人レベルで見れば、単に弱者が死んだだけ。
  • 起業は集団全体の知識を高める営み。現代社会が進歩するためには、失敗した起業家に戦没兵士と同等の敬意を払うべき。
良質なリスク・テイク 起業のような、他者に利益をもたらす、善良で、英雄的で、反脆いリスク・テイク
悪質なリスク・テイク フクシマ原発のような、負のブラック・スワンをもたらすリスク・テイク
第2部 現代性と、反脆さの否定
第5章 青空市(スーク)とオフィス・ビル
従業員 ○不安定ではないが、人事部からの電話1本で収入がゼロになる。
○リスクが見えない。
ランダム性を人工的にならそうとすると、安定しているが、脆い。
タクシー運転手、
売春婦、大工、
配管工、仕立屋、
歯科医、…
○収入がゼロになるような職業上の小さなブラック・スワンに対しては頑健。
○収入は、日単位に見れば不安定だが、年単位に見れば安定。
○絶えず適応と変化を繰り返す。
○身がもたなくなるまでは好きに仕事を続けられる。
変動性はシステムの改善に役立つ。
人生における大きな誤解
  • 「ランダム性はリスクを伴う。よって悪いものだ。リスクを取り除くには、ランダム性をなくすしかない。」という誤解。
  • 「個人タクシー運転手よりも、雇用が保証されている従業員のほうが収入が安定している。」という誤解。
  • 人間は、変動性を恐れ、システムを守ろうとすることで、知らず知らずのうちにシステムを脆くしてしまう。
  • システムに変動性があればあるほど、ブラック・スワンの影響を受けにくい。
スイスは地球上でもっとも反脆い国
  • 「唯一の政府」がない。完全ボトムアップ型の地方自治体。ほぼ独立したミニ国家が、連邦国家を構成している。
  • 国の大きさと比較して、中央銀行が小さい。
  • スイス国民は、自分の国の大統領名を答えられない。
  • 大きなものは必ず崩壊する。大企業、超大型哺乳動物、巨大政権にもあてはまる普遍的な数学的性質
  • 銀行業界には危機があるが、レストラン業界には危機はない。
「月並みの国」「果ての国」
月並みの国 ○小さな変化がしょっちゅう起こるが、全体的に見れば(長い目で見れば)相殺される。
○変動性には数学的性質がある。
果ての国 ○ほとんどの期間は安定しているが、たまに大混乱。
○変化がかたまりとなって起こる。
  • 私たちの世界は、変動が絶え間なく起こるがコントロールしやすい世界(月並みの国)から、統計学的なベル・カーブの世界(穏やかなガウス分布または正規分布の仲間)、そして予測が非常に難しく、急激な変化が起こる世界(ファット・テール)へと変遷へんせんしつつある。
七面鳥問題
  1. 七面鳥は1000日間、肉屋に育てられる。
  2. 1日がたつたびに、七面鳥アナリストは、肉屋が七面鳥を愛しているという、統計的信頼度が高まっていると確信する。
  3. 七面鳥の人生が非常に安定していて、何もかも予測どおりに進んでいたそのとき、肉屋は七面鳥をびっくり仰天させる。
  • 【質の悪い間違いの根本原因】「(有害性の)証拠がないこと」を「(有害性が)ないことの証拠」と勘違いしてしまうこと
  • 私たちが見るべきなのは証拠ではなく(証拠が見えてからでは遅い)、潜在的な被害。
  • 「世界がどんどん平和に向かっている」というのは七面鳥風の安易な考え。世界はいまだかつてないほど、大きな被害を受ける可能性を秘めている。
第6章 ランダム性は(ちょっとなら)すばらしい!
  • システムにランダム・ノイズを注入し、その働きを向上させる。
  • 火事が起こらないと、燃えやすい物質が蓄積していく。
  • 政治不安や戦争がないと、爆発性のある物事やリスクが水面下で蓄積していく。
  • 変動性を人工的に抑えることの問題点は、システムが極端に脆くなることだけではなく、同時にリスクが見えなくなること。変動性は情報だ。
ビュリダンのロバ
  • 食料と水の両方に同じくらい飢えたロバを、食料と水のちょうど中間に置けば、そのロバはどちらか一方を選べずに飢餓か渇きで死ぬ。
  • どちらか一方にランダムに小突けば命を救える。
焼きなまし法
  • 過熱によって原子が元の位置から飛び出し、高エネルギー状態の中でランダムに動き回る。これを冷却することで、それまでよりも優れた原子配列が見つかる可能性が高まる。
現代性
  • 人間が環境を大規模に支配し、でこぼこした世界を几帳面にならし、変動性やストレスを抑えようとすること。
  • ランダム性でいっぱいの環境から、人間を物理的、社会的、認識論的に排除し尽くすこと。
  • 「社会は人間にとって理解可能なものなので、人間が設計すべきである」という合理化(浅はかな合理主義)によって特徴づけられた時代精神。
  • 【現代性の時代を特徴づけるもの】ロビイスト、超有限責任会社、MBA、七面鳥問題、世俗化(国旗のような、祭壇に代わる新しい神聖な価値観の再発明)、税務担当者、上司への恐れ、楽しい場所で過ごす週末とつまらない場所で過ごす平日、仕事と娯楽の分離、退職金制度、型通りの思考、帰納的推論、科学哲学、社会科学の発明、滑らかな表面、自己中心的な建築家
  • 【国民国家の誕生】神に委ねていた改良の力が人間の手に渡った。人間の過ちが集中し、拡大するようになった。現代性は、国家が暴力を負うことで幕を開け、財政の無責任を負うことで幕を下ろそうとしている。
第7章 浅はかな干渉――医原病
浅はかな干渉主義
  • 「助けなければ」という固定概念。
  • 利得と害の損益分岐点を見極めるという意識が欠けている。
医原病いげんびょう
  • 治療の被害(ふつうは目に見えなかったり、遅れてやってきたりする)から、治療のメリットを差し引いた部分。
  • 「医者が原因の病気」
  • 医原病の数は知識の増加とともに増えていき、19世紀後半にピークを迎えた。
  • 現在アメリカでは、医療ミスによって自動車事故の3倍〜10倍の人々がなくなっている。
  • 院内感染のリスクを除いても、医師に起因する死はどの種類のがんよりも多い。
  • 害の根源は反脆さの否定にある。つまり、「物事をうまく機能させるには私たち人間の力が必要だ」という考え。
  • 2007年に始まった経済危機の主な要因は、超フラジリスタのアラン・グリーンスパンの行動が引き起こした医原病。
  • 景気循環を排除しようとする取り組みこそ、すべての脆さの元凶。
  • 「何もしない」ことを正当化するには相当な勇気が必要。
  • システムに自然に備わっている反脆さや自浄能力を無視するのはやめよう。システムから自浄の機会を奪って、システムに害や脆さを与えてしまうクセを直そう。
エージェンシー問題(プリンシパル=エージェント問題)
  • 一方の当事者(エージェント)の個人的利害が、サービスの受け手(プリンシパル)のり外と一致しない場合に発生する。
  • 株式ブローカーや医者の最大の関心は、顧客の儲けや健康ではなく、自分の収入。だから、自分の利益につながるアドバイスをしがち。
医原病の反対 → 資本主義
  • 個人の利己的な意図を、集団の利益へと変える力を持っている。
先延ばしの妙
  • 何かをしなかったことで名声を得た英雄
  • 自然治癒に任せた医者
  • 損失を回避した企業経営者
  • 先延ばしは、物事を自然の成り行きに任せ、反脆さを働かせる、人間の本能的な防衛手段。
  • 先延ばしは、情報のえり分けを上手に行い、情報に飛びついて失敗するのを避けるためのひとつの手段。
ノイズ
  • かかりつけの医者がいる人ほど浅はかな干渉主義に陥りやすく、医原病にかかりやすい。
  • 企業や政策決定の分野でも、統計が山のように手に入ると、過剰反応を起こし、ノイズを情報と勘違いする。
  • データが多ければ多いほど、現実がわからなくなり、医原病のリスクが高まる。
「きっかけ = 原因」という錯覚
  • 抑圧され、自然な無秩序に飢えたシステムは、脆いがゆえに、ゆくゆくは崩壊する運命にある。ところが、崩壊しても、脆さのせいにされることはない。むしろ予測が間違っていたことにされる。
  • 脆い橋が崩壊したのを、最後に横切ったトラックのせいにするのはバカげている。そして、どのトラックで橋が壊れるかを前もって予測しようとするのはもっとバカげている。
  • サブプライム・ローン市場の崩壊は金融危機の症状であって、根本原因ではない。
  • 局所的な因果連鎖に対する錯覚
    • オバマがエジプトの暴動を予測できなかったことを「諜報ミス」と非難。
    • きっかけを原因と混同しているだけでなく、どのきっかけが結果を生んだのかを理解できると思いこんでいる。
  • 調べなければならないのは事件そのものではなく、システムやその脆さ。(パーコレーション理論)
第8章 予測は現代性の生みの子――ブラック・スワンの世界へ
脆さをコントロールするためのポイント
①脆さや反脆さを見極める。 ・事象の構造を予測したり理解したりするよりもずっと簡単。
予測ミスによる損失を最小化し、利得を最大化する方法を考える。 ・私たちが間違いを犯しても崩壊しない(さらには崩壊を逆手に取るような)システムを築くことが大事。
②差し当たっては世界を変えようと思ってはいけない。 ・問題や予測ミスに対して頑健な(さらにはミスを逆手に取るような)システムを作り、レモンでレモネードを作る。
・When life gives you lemons, make lemonade.
③レモンからレモネードを作るのが歴史の役目。 ・反脆さとは、あらゆるストレスの生みの親であるときの流れのもとで、物事が前進していく仕組みなのである。
④反省すべきなのは、事象そのものを予測できなかったことではなく、脆さや反脆さを理解していなかったことについて。 ・「どうして私たちはこの種の事象にこれほど脆いシステムを作ってしまったのか?」
・津波や経済危機を予見できないのは仕方がない。それらに対して脆いシステムを作るのは罪。
⑤事故の発生や確率を予測するよりも、むしろ事故に対するエクスポージャーに注目すべき。 ・十分に小さな原子炉を地中深くに埋め、幾層モノ保護を講じる。
・たとえ事故が起きても私たちに悪影響は及ばない。
2種類の世界
私たちは、月に人間を送りこみ、ミニ市役所を備えた村を建設し、惑星の軌道や量子物理学の微細な効果を予測できるのに、
同じくらい高度なモデルを備えた政府は、革命・危機・財政赤字・気候変動はおろか、今から数時間後の株式市場の終値を予測することさえできない。

予測が可能な
世界
・稀少な事象が深刻な問題ではない世界。
ブラック・スワンの
世界
・希少な事象が予測不能で重大な影響をもたらす世界。
・社会的、経済的、文化的な生活。
測定不能で予測不能なものは、永久に測定不能で
どれだけ高度な統計学やリスク管理手法を使っても到達できない知識の限界がある。
第3部 予測無用の世界観
第9章 デブのトニーとフラジリスタたち
  • 他人の評価に依存するのは健康に悪い。人間が他人を評価するやり方というのは、残酷で不公平。
    • 大金の眠るポートフォリオのサマリーを自宅に郵送し、封筒を開け、ああとは何もなかったように1日を送る。これで、残酷で不公平なおしゃべり屋たちの存在を忘れ、評価の世界から抜け出すことができる。
  • 人間の立派さは、自分の意見を貫くためにどれだけ個人的リスクを冒したかに比例する。
  • デブのトニーは予測というものを信じていなかった。しかし、予想屋が破綻すると予測して、大金を儲けた。
  • 【単純な戦略】脆さを見つける。脆いシステムの崩壊に賭ける。
第10章 セネカの処世術
  • 非対称性という考え方は、本書や人生の核であり、頑健さや反脆さにとっての鍵。
  • 知識人は反脆さに反感を抱いている。彼らの思考は頑健さでストップしている。
ストア哲学
  • 【頑健】
  • 運命に対する無関心さ。
  • 俗物的な富を批判。
  • 災難という苦難をあえて求めるようになる。そして、彼らは贅沢を軽蔑する。
  • 金持ちになると、もっと富が増える喜びよりも、財産を失う痛みのほうがはるかに大きくなる。
  • 財産に依存するほど、財産は私たちに罪を与える。ダウンサイドばかりになり、アップサイドはなくなる。
セネカ流の
ストア哲学
  • 【反脆い】
  • ダウンサイド(潜在的不利益)はないが、アップサイド(潜在的利益)はたくさんある。
  • 【脆さを打ち消す実践的な手法】
    • 財産を頭のなかで帳消しにする。
    • 難破した直後かと思うような持ち物しか持たずに、旅に出かける。
    • 就職する前に辞職届を書き、引き出しにしまっておく。
    • 朝起きるたびに、最悪の出来事が起きたと思い込む。
  • 知的な生活とは、痛みを感じなくてすむように感情を位置づけること。そのためには、自分の財産を頭のなかで帳消しにし、失う痛みを感じないようにすればいい。そうすれば、世界が変動しても悪影響を受けることはない。
  • 感情をなくすのではなく、手なずける。恐怖を思慮深さに、苦しみを教訓に、過ちをきっかけに、そして欲望を実行に変える。
  • 富は賢者の奴隷であり、愚者の主人である。
  • 善を手元に残し、悪を捨てる。ダウンサイドを切り捨て、アップサイドを取っておく。アップサイドとダウンサイドの非対称性
非対称性
脆弱性 =得るものよりも失うもののほうが多い
=アップサイドよりもダウンサイドのほうが多い
=(悪い意味での)非対称性
反脆弱性 =失うものよりも得るもののほうが多い
=ダウンサイドよりもアップサイドのほうが多い
=(よい意味での)非対称性
第11章 ロック・スターと10パーセント浮気する――バーベル戦略
バーベル戦略 = 二峰性戦略
  • 極端なものが両端にあり、中央には何もないという組み合わせ。必ずしも対称ではない。
ある分野では安全策を取り(負のブラック・スワンに対して頑健で)、 別の分野では小さなリスクをたくさん冒す(正のブラック・スワンの余地を残す)ことで、反脆さを実現する。
一方で極端なリスク回避を行い、もう一方で極端なんリスク・テイクを行う。
単なる「中間」のリスク・テイクや「中程度」のリスク・テイクは冒さない。
中程度のリスクには大きな測定誤差が生じるから負け試合であることが多い。)
ダウンサイドを切り捨て、極端な損害から身を守ると同時に、 アップサイド(正のブラック・スワン)が自然とやってくるのを待つ。
  • 資産の90%を平凡な現金で持ち、10%をこれ以上ないくらいハイ・リスクな証券で持つ。
  • 誤り)高確率の小さな損失に保険をかけ、低確率の大きな損失に保険のかけない。
  • 中庸が「黄金の中庸ゴールデン・ミドル」にならない分野はいっぱいある。その分野でこそ二峰性戦略が活躍する。
  • バーベル戦略とは、不確実性を排除することなく、手なずけること。

  • 脆さの潜む経済成長は、成長と呼べない。
    • 墜落のリスクが高い飛行機は、目的地に着かない可能性があるので、「速度」という概念が無意味になる。
  • 今日の国々は、スピード狂の若者ドライバーのように、成長を求めて愚かな競争を繰り広げている。
第4部 オプション性、技術、そして反脆さの知性
  • 【目的論的誤り】
    • 「過去に自分の行き先を完璧にわかっていた」という錯覚。
    • 「他人も自分の行き先を理解していて、ほしいものを訊ねればちゃんと答えが返ってくる、」という思い込み。
    • スティーブ・ジョブズの考え方:「人間は、こっちが何かを与えてやるまで、何がほしいのかわからない」
  • 【分別のある遊び人】立ち寄った先々で旅程を見直し、新しい情報に基づいて行動を決められる人。
  • 【アメリカの財産】リスク・テイクとオプション性の使い方にある。失敗しても恥をかくことはない。合理的な試行錯誤。
  • 【日本の負債】失敗は恥。だから金融や原子力のリスクを隠そうとする。「高貴なる敗北」に敬意を払う。
    • 【高貴なる敗北】
      • 西洋では成功者を崇めている。没落は汚点である。しかし、日本では挫折した英雄を特にひいき目でみる性質がある。
      • この世の成功を手に入れるには、一般にさまざまな術策、妥協を必要とするが、日本では成功のためのいっさいの謀計をいさぎよしとしない。ひたむきな誠実さ、一途に誠心を持つ人物が英雄として存在している。
第12章 タレスの甘いぶどう――オプション性
ファック・ユー・マネー
  • 人間が腐ってしまうほどの大きな財産はないが、お給料をそれほど気にせずに好きな仕事を選べるくらいの財産を持っていること。
  • 富のほとんどのメリットを得るには十分だが、副作用はないお金。
オプション性と非対称性
  • 買手には権利はあるが義務はなく、もう一方の売り手には義務はあるが権利はない。
  • 判断が間違っていたときの損失よりも、正しかったときの利益のほうが多ければ、長い目で見ると変動性はプラスに働く。
    • 何がどうなっているかを理解する必要などない。
  • 金銭的な自立 → 選択肢が増え、正しい選択ができるようになる。∴自由は究極のオプション。
  • 社会を成長させるには、アジア方式のように平均を押し上げるのではなく、テールに属する人数を増やす必要があるのかもしれない。
いじくり回しティンカリング
  • 【いじくり回し】失敗は起きても損失が小さいが、潜在的な利得は大きい、というタイプの試行錯誤。


  • どんな試行錯誤も、良い結果を正しく見極め、利用することができてこそ、オプションとみなせる。
 オプション = 非対称性 + 理性 
  • 理性とは、よいものを残して悪いものを捨て、利益を得るだけの分別があるということ。
  • 保険など明確なオプションは料金が高くなる傾向がある。しかし他の分野となると、過小評価されているオプションや無料のオプションが放置されている。(領域依存)
  • 「人生はロング・ガンマだ」
    • 【ロング・ガンマ】ボラティリティが上昇すると利益を得る
  • アメリカの富の原動力:①不動産、②テクノロジー
    • 不動産投資家は、銀行を犠牲にしてオプションを保有している。
    • テクノロジーは、ほとんど試行錯誤に頼りきっている。
    • 負のオプション性を持つ銀行は、経済が吹っ飛ぶたびに、今までコツコツ積み上げてきたお金を一気に失う。
  • 知識はあいまいで不毛なもの。私たちがスキルで得たと思っている物事のほとんどは、実際にはオプション(うまい具合に行使されたオプション)によって得られたものであり、私たちが理解していると思いこんでいる物事から得られたわけではない。
第13章 鳥に飛び方を教える――ソビエト=ハーバード流の錯覚
  • 単純明快な発見ほど、複雑な手法では見つけにくい(車輪付きスーツケース)
学問 → 応用科学技術 → 実践

数学 → 鳥類学的な飛行・はばたき技術 → 鳥が飛ぶ
ではなく
ランダムないじくり回し(反脆さ)→ ヒューリスティック(技術)→ 実践と実習 → ランダムないじくり回し(反脆さ)→ ヒューリスティック(技術)→ 実践と実習 →

  • 観光パンフレットや商品広告に対しては、あまり信用しすぎないように、私たちは補正をしている。しかし、科学・医療・数学になると補正をしない。
第14章 ふたつが“同じもの"じゃないとき
  • 迷信:大学の知識が経済的な富を生みだす
    • × 教育 → 富と経済成長
    • ○ 富と経済成長 → 教育
  • 【随伴現象】富裕国の教育水準が高いと見るやいなや、教育が国を豊かにすると推論してしまう。
  • 個人レベルでは教育は必要だが、国家レベルでは意味はない。
  • 見てくればかり整えられて商品化・パッケージ化された知識に価値はない。
  • アメリカの教育水準の低下は問題でない。凸なリスク・テイクこそがアメリカの価値観。
  • 【教育の本当のメリット】価値観を育み、善良な市民を作り、「学び」を促すこと。経済成長ではない。
  • 頭にまやかしの知識や複雑な手法をいっぱい詰め込んでいる連中ほど、ごくごく初歩的な物事を見落とす。実世界に生きる人々には、見落としている余裕などない。
  • お勉強すればするほど、初歩的だが根本的な物事が見えなくなっていく。 行動は物事の核心だけを浮かび上がらせる。
同一化conflation
  • あるもの(認識・思想・理論など)と、その関数(価格・現実・リアルなもの)とを混同してしまうこと。
  • クウェートと原油は同じものじゃない。
    • 多くの人たちが、戦争を正しく予測しておきながら、原油価格の暴落で無一文になった。戦争は織り込み済みだった。


  • 日和見主義とオプション性があれば、未来に突き進むことができる。オプション性は、不確実性を手なづけ、未来を理解しなくても合理的に行動できる唯一の方法。
  • イノベーションや成長をもたらすのは、教育や組織的・体系的な研究ではなく、たいていは反脆いRISC・テイク。
第15章 敗者が綴る歴史――試行錯誤の汚名をすすぐ
  • 学問としての科学では決してなく、進化論的ないじくり回し(試行錯誤)のおかげで生まれた成果が、いつの間にか学問の手柄にされてしまう。
    • ジェット・エンジンの発祥と発展: 物理学者ではなく、「動く理由」なんて理解しないまま試行錯誤してきたエンジニア
    • 産業革命の発祥と発展: アマチュア愛好家とイギリス牧師
    • ベイズ確率論のトーマス・ベイズも牧師。牧師は、心配事もないし、博学で、大きな家があり、お手伝いさんがいて、スコーンと紅茶を愉しめ、自由な時間がたっぷりあった。
  • ベンチャー・キャピタリスト:「馬ではなく騎手に賭ける」
    • イノベーションは入れ替わりが激しいので、お役所的な型にとらわれるのではなく、チャンスを見つけるたべにとらえつづける、遊び人みたいな能力が必要。
    • 積極的に試行錯誤し、オプションをうまく利用してくれそうな人に投資すべき。
    • 「ペイオフは莫大なのだから、全部に賭けておかない手はない」
  • 歴史的に見て、懐疑主義と言えば、神のような抽象的な存在に対する懐疑主義ではなく、専門的な知識に対する懐疑主義だった。そして、偉大な懐疑主義者はたいてい、信心深いか、少なくとも宗教に肯定的である(つまり、他者の信仰を否定しない)。
企業の目的論 〜戦略に効果はない
  • ほとんどの経営理論は似非科学。
  • 戦略計画が有効だという証拠はない。逆の証拠はある。計画を立てることで、企業は計画通りの行動しか取れなくなり、オプションに対して盲目になる。
  • 企業が日和見的に変遷していった例:医薬品だったコカ・コーラ、文具店だったティファニー、製紙会社だったノキア・・・
逆・七面鳥問題
  • 試行錯誤のような反脆いシステム(正の非対称性、正のブラック・スワンが潜んでいるシステム)では、実績の標本をとると、長期的な平均が過小評価される傾向がある。短所ではなく長所が隠れてしまうため。
  • 負の非対称性(七面鳥問題)が潜んでいる脆いシステムでは、実績の標本をとると、長期的な平均が過大評価される傾向がある。短所が隠され、長所だけが見えるため。
  • バイオ・テクノロジー業界の可能性
    • 果ての国では、ほとんどの企業に利益が出ないのは当たり前。希少な事象が状況を支配していて、ほんの数社がすべての富を生みだす。
鉄則
(1) オプション性を探すこと。
もっといえば、オプション性に従って物事をランクづけすること。
(2) できればペイオフに上限があるものではなく、ないものを探すこと。
(3) ビジネス・プランではなく人間に投資すること。
つまり、キャリアを通じて6〜7回方向転換ののできる人を探すこと。 人間に投資すれば、ビジネス・プランのような後付のつじつま合わせにだまされずにすむ。それに、そのほうが単純に頑健だ。
(4) バーベル戦略をとること。
第16章 無秩序の教訓
  • ゲームをしても人生勉強の代わりにはならないし、ゲームのスキルは人生で役立たない。学校で習った専門的技術も同じこと。
  • 教育ママは子どもの生活から試行錯誤や反脆さを取り除き、子どもを生きた世界から遠ざけ、自分の思い描く現実の地図どおりに動くオタクへと変えてしまう。
  • 教室なんかに通わなくても、個人的な蔵書を持っていて、自由気ままな遊び人として時間を過ごし、本の中でも外でもランダム性を糧にすることさえできれば、オタクにならなくても知識人になることは可能だ。 私たちに必要なのは、ランダム性、無秩序、冒険、不確実性、自己発見、トラウマに近い出来事だ。 これらがあるからこそ、人生には生きる価値がある。
  • 自由なのは独学者だけだ。それは学問に関わることだけではない。人生を脱コモディティ化し、脱観光客化しようとする人たちはみな自由なのだ。
  • 教育ではなく、教養や金。
  • ひとつの本やテーマに飽きたら、読むのをやめる代わりに、別の本やテーマに移る。
    • 試行錯誤し、決して立ち止まらず、必要なときは枝分かれする。だが、全体としては自由や日和見主義の感覚は失わない。試行錯誤は自由そのものだ。
  • 読む本を選ぶときに、自分の心の声に従う。勉強しろと言われたことは忘れるが、自分で決めて読んだものは忘れない。
第17章 デブのトニー、ソクラテスと相対(あいたい)す
フリードリヒ・ニーチェ
プラトン ニーチェ
  • 定義的な知識を優先する思想。
  • 「定義を示す『イデア』を理解しないかぎり、何も理解することはできない」
  • 「自分に理解できないからと言って、不合理とはかぎらない」

アポロン的 安定していて、バランスが取れていて、合理的・理性的・自制的なもの。
ディオニュソス的 あいまいで、直感的・野性的・自由奔放で、理解しにくく、身体の内側から湧いてくるようなもの。

  • 知識の成長(あるいは、あらゆるものの成長)は、ディオニュソス的なものがなければ進まない。
  • デュオニュソス的なもの・・・確率論的ないじくり回しの源。
  • アポロン的なもの・・・選択プロセスにおいて合理性を与える。
セネカ
リベル=パテル 生命の継続に欠かせない精力をもたらすバッコス神の力。
デュオニュソス的なものと同じ。
ヘラクレス 力の象徴。
メルクリウス 技術・科学・道理の象徴。
アポロン的なものと同じ。
  • 「体系的な学習」は、経験主義のような豊かな構造よりも、浅はかな合理主義のような陳腐化や単純化がお好き。
  • 論理はニュアンスを排除する。ところが、真実はニュアンスの中にこそある。
  • 世の中を分けるのは「正しい」か「正しくない」かではなく、「カモ」か「カモじゃない」かだ。
  • エクスポージャーのほうが知識よりも重要。意思決定がもたらす影響は、論理に勝る。
  • いちばん大事なのは、ペイオフ(事象によって生じる利得や損失)であって、事象そのものではない。
  • 人は確率の大小ではなく、脆さに基づいて決定を下している。「正しい」「正しくない」ではなく、脆さに基づいて意思決定している。
    • 「信頼水準95%で安全な飛行機」に乗れるか。実世界で大事なのはペイオフ。
  • 予測精度を高めることよりも、エクスポージャーを修正して、トラブルに近寄らないすべを学ぶほうが有効。
  • 教育は外的ストレスあしに成長しつづけている。そんなものはいつか崩壊するに決っている。(教育は目的論敵で、無秩序を嫌う。)
第5部 あれも非線形、これも非線形
第18章 1個の大石おおいしと1000個の小石の違いについて
  • 【脆さを見分ける単純な法則】衝撃の強さが増すに従って、被害の増す度合いは大きくなっていく。
    時速80kmで衝突 vs 時速10kmで8回衝突
    人間の
    対アルコール消費
    7本のワインを一晩に vs 1日1本を7日間
    陶器のカップ 30cmの高さから落とす vs 2cmの高さから15回落とす
  • 小さい衝撃の累積的な効果よりも、めったにない1回の巨大な衝撃のほうが、大きな被害になる。
  • 脆いものとは、まだ壊れていなくて、しかも非線形的な効果(つまり極端で希少な事象)にさらされているものである。
  • 【脆さを見分ける単純な法則】小さな衝撃がもらたす累積的な影響は、その合計と同等な1回の巨大な衝撃がもたらす影響よりも小さい。
  • 【反脆いもの】衝撃の強さが増すに従って、利益の増す(害の減る)度合いは大きくなっていく。
    • 筋トレ:25kgを2回持ち上げるよりも、50kgを1回持ち上げるほうが効果がある。【筋肉の限界 】
  • ダウンサイド(潜在的損失)よりもアップサイド(潜在的利益)のほうが多い場合、曲線は凸になる。

  • 移動のコストは幹線道路上の自動車の台数の変動性に対して脆い。
    • 自動車の台数が10%増えると、所要時間は50%増える。
  • ぎりぎりで機能しているシステムでは、ほんのちょっとの変更が複雑な影響をもたらす。
  • 何かに対するエクスポージャーを2倍にしたとき、もたらされる害が2倍以上になるならば、脆い状態である。
  • 一時的な栄養不足が重要。
    • バランスのよい食事を毎日規則的にとるよりも、1日目にタンパク質をたくさんとり、2日目には絶食し、3日めにごちそうをとる。
  • 健康上のメリットは、速度に対して凸。
    • 「1マイルを20分かけえて、のんびり歩く」よりも、「14分休んで、1マイルを6分で走る」。
  • トレーニングとは、ストレスに対する反脆さを利用して、利益を得ることにほかならない。
スクイーズ
  • squeeze [skwi:z]
  • to press something firmly together with your fingers or hand.
  • どんな代償を払ってでも、あることを今すぐにする以外に選択肢がない状態。
  • (売り方の)締め上げ
  • 【squeeze in margins】利ざやの縮小
  • 【short squeeze】他人の売りポジションが出している損切り注文の価格レベルを推測し、それを約定させるために買い上げること。ストップ買いが約定すれば一気に上昇に加速が付く。
  • 【例】
    ニューヨーク →(ロンドン経由)→ フランクフルト の格安チケット400ドルを購入。
    悪天候のため、ロンドン→フランクフルトが欠航。
    時間がないため、直後のフランクフルト便を泣く泣く4,000ドルで購入。←スクイーズ
  • 規模が増すにつれて、スクイーズの代償は非線形的に大きくなる。
    • 【例】
      水不足になったときに、どんなに高くても水を買うしかない。(スクイーズ)
      ゾウを飼っていたら、スクイーズの代償は大きくなる。
  • 「規模の経済性」(事業規模が拡大すればするほど、コスト単価が下がり、利益性が高まる)への反論
    • ストレスがかかると規模はかえってあだになる。
    • 統計を見る限り、企業の合併に効果が見られない。
    • 【傲慢仮説(hubris hypothesis)】買収が利益につながらない原因は、買収側の経営者が自信過剰に陥り、本来の価値と比べて高すぎる買収プレミアムを支払ってしまうことにある。
  • 規模がもたらす脆さ
    • 70億ドルを投げ売りしても損失は出ないが、700億ドルを投げ売りすれば市場はパニックkを起こし、60億ドルの損失になる。
    • 1個の大石と、同じ重さの小石。
    • プロジェクトの規模が増加するにつれ、成果は乏しくなり、予算全体に対する遅延コストの占める割合は高くなっていく。但し、細かく分割できるプロジェクトなら大丈夫。
    • 超大型チェーン店よりも「小さな商店街」がよい
      • 会社が破綻したとき(統計学上、会社はいつか破綻する)の影響が大きいため。
      • 破綻の可能性を考慮せずに、便益を計算するのは完全に間違っている。
  • 「現在の最適化された経済生活」は脆い。負荷がかかるとたちどころに機能しなくなる。
    • 1%の純需要の増加で小麦価格が3倍以上になった。
  • ボトルネックは、あらゆるスクイーズの母である。
プロジェクトの遅延
  • 見積りが楽観的すぎるから?「自信過剰バイアス」「計画錯誤」
    • 「見積りの過小評価」は、1世紀前やそこら前には存在していなかった。
昔の
プロジェクト
  • コンピュータは使わず、部品は現地の近くから調達し、サプライチェーンには少数の企業しか関わっていなかった。
  • 「プロジェクト管理」とかいうものを教え、過信を助長させるビジネス・スクールもなかった。
  • 大きなエージェンシー問題(一方の当事者の利害がそのクライアントの利害と乖離している状態)もなかった。
現在の
プロジェクト
  • 複雑性、部品同士の相互依存、グローバル化、綱渡りを強いるくだらない「効率性」 →ブラック・スワンの影響が増している
  • 主犯は情報経済
    • 予算超過や遅延は、情報技術があるところではかなり深刻になる。
  • 「計画錯誤」は、本質的には心理的問題ではなく、構造の問題。
    • 「計画錯誤」は、人為的ミスの問題ではなく、プロジェクトの非線形的な構造に本質的に潜んでいる問題。
    • 時間や費用が負になることはない。
    • ミスは右向きに影響を及ぼすことはあっても、左向きに影響を及ぼすことはない。
「効率的」は効率的でない
  • 経済はますます効率的になるかもしれないが、脆さがもたらすミスのコストは高くなっている。
  • 人間のトレーダーの犯すミスは限度があり、分散されているが、コンピュータ・システムの犯すミスはとてつもない。【フラッシュ・クラッシュ】
  • 環境を保護する理由は、不透明性が存在するから。
  • グローバル化によって害は加速する。グローバル化が脆さを生み出している原因は、間違いなく複雑性にある。
  • 私たちが今までよりも深刻な間違いを犯すようになったのは、単に今までよりも豊かになったから。
    • 予算1億ドルのプロジェクトが500万ドルのプロジェクトよりも予測不能で、予算超過に陥りやすい。
    • 単に豊かになるというだけで、世界はもっと予測不能で脆くなる。
  • 脆さは非線形的なものの中にある。
第19章 賢者の石とその逆
脆さ(反脆さ)を測る指標
  • 計算ミスや予測ミスが全体的に利得よりも損失をもたらすかどうか調べ、その被害がどれくらい加速するかを確かめる。
  • 加速・・・10キロの石による被害は、5キロの石による被害の2倍以上になる。
脆弱性(反脆弱性)検出ヒューリスティック(fragility and antifragility detection heuristic)
脆い交通システム 自動車が1万台増える → 所要時間が10分伸びる
自動車がさらに1万台増える → 所要時間が30分伸びる
脆い企業 売上が10%増加したときの利益の増加分 < 売上が10%減少したときの利益の減少分
川の深さが平均で4フィートなら渡ってはいけない
  • 「平均気温21℃の場所で過ごす」
  • 平均という概念は、変化に対して脆い場合には何の意味もなさない。
  • 平均よりも「ばらつき」が重要。
賢者の石(lapis philosophorum)
  • 「賢者の石」=「オプション性のある性質に基づく手法」
    • ポイント1.同一化問題の重要性
      (同一化問題とは・・・原油価格を地政学の問題だと勘違いすること; 投資の成功を、ペイオフの凸性やオプション性ではなく、正確な予測の問題だと勘違いすること)
    • ポイント2.オプション性の存在するものに長期的な利点がある理由と、その測定方法
    • ポイント3.イェンゼンの不等式と呼ばれる、もうひとつの深遠な性質
(a) 非線形であればあるほど、xの関数はxとかけ離れていく。
(b) xの変動性(不確実性)が高いほど、xの関数はxとはかけ離れていく。
(c) 関数が凸である(反脆い)場合、「xの関数の平均」は「xの平均の関数」よりも大きくなる。関数が凹である(脆い)場合はその逆。
--------------------------------------
凸な関数
たとえば 平方関数 y = x^2

x=1, 2, 3, 4, 5, 6

「xの関数の平均」
(1^2 + 2^2 + 3^2 + 4^2 + 5^2 + 6^2) / 6 = 15.17

「xの平均の関数」
{ (1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6) / 6 }^2 = 12.25

15.17 と 12.25 の差 ⇒ 「反脆弱性の潜在的利益」
--------------------------------------
  • オプション性の威力
    • ペイオフが線形的な場合、全体の5割以上で正しい判断をしないと儲からない。
      ところがペイオフが凸である場合、それよりもずっと少なくてすむ。
    • バカであっても、反脆ければ好成績を上げられる。
--------------------------------------
凹な関数
たとえば 平方根関数 y = √x

x=1, 2, 3, 4, 5, 6

「xの関数の平均」
(√1 + √2 + √3 + √4 + √5 + √6) / 6 = 1.80

「xの平均の関数」
√{ (1 + 2 + 3 + 4 + 5 + 6) / 6 } = 1.87

1.80 と 1.87 の差 ⇒ 「反脆弱性の潜在的損失」
--------------------------------------
  • よい非線形性(正の凸性)が存在し、オプション(選択肢)が特殊なケースであれば、長い目で見るとまあまあうまくいき、不確実性があれば平均を上回ることができる。
  • 不確実性が増すほど、オプション性の果たす役割も増し、成績はいっそうよくなる。
  • この性質は、人生にとってとても重要な意味を持つ。
第6部 否定の道
  • 干渉主義者は、肯定的な行動、つまり「すること」を重視する。
  • ペテン師は、肯定的なアドバイスだけをする。
  • 進化の過程で生き残ったプロたちが使うのは、否定的な方法
    • チェスのグランドマスターは、負けないことで勝ちを得る。
    • 人々は、破綻しないことで金持ちになる。
    • 宗教は、ほとんど禁止事項で成り立っている。
  • 何を避けるべきかを学ぶのが人生。
  • 私たちは、何が正しいかよりも何が間違っているかをずっと多く知っている。
  • 否定的な知識(何が間違っているか、何がうまくいかないか)のほうが、肯定的な知識(何が正しいか、何がうまくいくか)よりも、間違いに対して頑健。
  • 知識は足し算よりも引き算で増えていく。
  • ひとりのバカ者を遠ざけるのは、ひとりの賢人と付き合うのに等しい。
  • スティーブ・ジョブズ: 「誰しも、何かに集中するというのは、集中すべきものにイエスと言うことだと思っている。 だが、そうじゃない。残りの100の名案にノーを突きつけることなんだ。 慎重に選ばなきゃならない。 本当のところ、私は自分のしてきたことと同じくらい、しなかったことにも誇りを持っている。 イノベーションとは、1000のアイディアにノーと言うことなのだ。」
  • 「少ないほど豊か(less is more)」というヒューリスティック
  • 「80対20の法則」から「99対1の法則」へ。私たちは今までよりもはるかに偏った分布へと歩みつづけている。
  • ブラック・スワンやテールの事象が社会経済の世界を牛耳っていて、そういう事象はそもそも予測不能なのだ、という単純な主張だけでも、統計をくつがえすには十分。
  • 何かをする理由が2つ以上あるなら、それはしないほうがいい。2つ以上の理由を見つけるということは、そうするべきだと自分に無理やり言い聞かせているのだ。
  • たったひとつの思想でしか知られていないのが、本当の哲学者。
オッカムの剃刀 ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない
ハンロンの剃刀 無能で十分説明されることに悪意を見出すな(Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.)
第20章 時(とき)と脆さ
  • 古いもののほうが新しいものと比べて、思うよりもずっと優れている。
  • ときは人間よりもものの脆さを理解していて、必要とあれば容赦なくぶっ壊す。
  • 「変動性」「無秩序」は反脆いものにとっては利益になるが、脆い害にとっては害になる。「時」は無秩序と同じ。
  • 未来を想像する =
    誤)現在の世界に新しいものが加わったところを想像する
    正)これからの時代になくなるものを未来から差し引く(否定の道)
  • 頭に思い描いているテクノロジーは、それがどんなに妥当で実用的に思えるものでも、世の中には生まれないだろう。
  • 私たちの世界は、当時の人々が想像した世界よりも、当時の世界にずっと近い。
最新性愛症ネオマニア
  • 最新世そのものを愛している。
  • 視野を失い、未来に対する足し算的なアプローチをとる。
  • エンジニアリング頭脳
    • 自閉症的傾向。オタク。
    • 人間的魅力に欠け、人ではなくモノにばかり興味があり、見た目に無頓着。
    • 実用性を犠牲にしてまで正確性にこだわる。
    • 文学的素養がない。←未来に対して無知な人間の特徴
  • 歴史を軽視。
  • 文学は過去を扱うもの。
  • 未来を理解するためには、技術屋の自閉症的な専門用語だとか、キラー・アプリへの執着だとか、そんなものはいっさいいらない。
    必要なのは、過去に対する敬意、歴史に対する興味、先人の知恵に対する渇望、そして「ヒューリスティック」、つまり生存にとって重要な暗黙の経験則に対する理解だ。
    言い換えれば、ずっと身の回りにあるもの、生き残ってきたものを重視する必要があるのだ。
リンディ効果(Lindy effect)
  • 長生きするほど寿命が延びる。
  • 壊れるものは、1日たつたびに平均寿命が短くなる。壊れないものは、1日たつたびに平均寿命が長くなることもある。
  • 技術は、長生きすればするほど、もっと長生きすると期待できる。
  • あるモノの頑健さは、それまでの経過年数にひれいする。
  • 私たちがランダムに目にするものは、ライフサイクルの初期でも末期でもなく、たいていはその中間にある。

  • 誤解)若い(新しい)技術を取り入れる人は、振る舞いも「若い」と考えてしまう。
  • 誤解)若い世代のほうが古い世代よりも貢献していると考えてしまう。
  • 多くの進歩が若者から生まれてくるのは、若者にしがらみが少なく、行動する勇気があるから。
  • 新しい技術のほうが売り込むのはラク。

  • 未来は過去にある。
  • 過去のない人間には未来はない。
  • 21世紀に必要なスキルが何かわからないのに、子どもに21世紀のスキルをどう教えればいいのか?
    古典を読ませる

  • 発表されて1年しかたっていない本は、どれだけ噂になっていて画期的に見えても、たいてい読む価値がない。
  • 「20年以内のものはできるだけ読むな。ただし50年以上前のことを書いている歴史書は別だ。」
心理的バイアス
  • 必要条件と原因を混同してしまう。
    • 生き残ってる技術に目に見えるメリットがあるからといって、目に見えるメリットのある技術がすべて生き残るわけではない。
  • 技術の「パワー」を盲信し、技術には世界を動かす力があると信じ込む心理的バイアス。
  • 静的な量ではなく変化に注目してしまう。
  • 大きな役割を果たしているけれども変化しないものよりも、変動や変化のあるものに注目してしまう。
    人間は携帯電話より水に依存しているのに、携帯電話の役割を過大評価する。
  • トレッドミル効果
    • 新しいものを手に入れても、やがては目新しさを感じなくなり、もっと新しいものがほしくなる衝動。
    • アップグレードすると、テクノロジーの変化でいったん満足度は急増するが、すぐにその状態に慣れ、新しいものがほしくなる。
  • テクノロジーに分類されないものに対してはトレッドミル効果がない。(古美術や年代物の家具など)
  • 技術的なものは脆い。一方、職人が作った品物は、トレッドミル効果を起こしにくい。

  • 電子書籍と紙書籍の比較 :共通点(本の本質である「情報」)に着目する。
  • 電子書籍と電子書籍の比較:相違点(スペック)に着目する。
  • 東京都民と大阪府民が日本で会えば、互いの相違点に着目する。
  • 東京都民と大阪府民が海外で会えば、互いの共通点に着目する。
タレブの未来予測
  • 現在25歳の技術の大半は、あと25年は生き残る。本棚、電話、職人など。
  • 脆いものは消滅する。三つ組トライアドの左側の列にあるものは消滅する。そして、別の脆いものがその穴を埋める。
  • 消滅する脆いもの:
    • 巨大で、最適化されていて、技術に過度に依存していて、年月をかけて実証されてきたヒューリスティックではなく、科学的手法に頼りすぎているもの
    • 巨大企業、国民国家、通貨を発行する中央銀行、経済学部
エンペドクレスの犬
  • 「犬がいつも同じ煉瓦の上で眠るのはなぜか?」
    • 犬と煉瓦の間には自然で生物学的な相性があるから。
      それは犬が何度も繰り返しその場所を訪れるという事実が実証している。
      理論ではなく歴史が実証している。
  • 読み書きのように、ずっと生き残ってきた技術は、この犬にとっての煉瓦。
  • 私たちの世界には、実践でしか理解できない秘密がある。意見や分析ではその秘密を完璧にはとらえることはできない。
    この秘密の性質はときが明らかにしてくれる。
  • あなたにとって理に適わないもの(宗教、習慣、…)も、それがずっと昔からあるなら、非合理的かどうかにかかわらず、ずっと先まで生き残ると考えていい。
第21章 医学、凸性、不透明性
  • 医学的手法に頼るべきなのは、健康上のメリットがとても大きく(命が助かるなど)、どう見ても潜在的な被害を上回る場合だけ。
  • 不快感をなくすだけの治療のように、薬・手術・栄養やライフらスタイルの改善によって得られる利益が小さい場合、私たちは大いに騙されている可能性がある。
  • 自然のほうが人間よりもはるかに賢いという統計的原理
    • 人口のものには利点があるという証拠が必要。
    • 自然のものには証拠は不要。
    • 複雑系の世界では、ときだけが証拠になる。
    • 自然vs人間:立証責任は人間側にある。
    • 母なる自然がすることは、正しくないと証明されるまで正しい。人間や科学がすることは、不備がないことを証明されるまでは不備がある。
    • この地球上で自然ほど「統計的に有意」なものはない。
  • 薬や治療が危険だと主張するのに、有害の証拠は必要ない。
    • 害は狭い過去ではなく未来にある。(七面鳥問題)
    • トランス脂肪酸は、ラードやバターよりも優れていて健康的だと考えられていた。
  • 医原病:利益は小さくて明確だが、代償は大きく、潜伏していて、遅れてやってくる。
金融市場 成熟した市場には「タダ飯」などなく、タダ飯に見えるものにはリスクが隠れている。
魔法のような薬があるなら、とっくに自然が見つけている。
  • 患者が瀕死ならリスクがある治療でも何でも試すべき。患者がほとんど健康なら、母なる自然に治療を仰ぐべき。
帰属の誤り
  • 人が成功を自分の実力のせいにし、失敗を運のせいにする。
  • 脂肪と炭水化物の同時摂取によって起こる問題を、炭水化物ではなく誤って脂肪のせいにする。
第22章 ほどほどに長生きする――「引き算」の力
  • 寿命が伸びたのは色々な要因が寄与。 治療がみんな長生きに役立っているという考えは重大な誤り。
    • 衛生の改善
    • ペニシリン
    • 犯罪の減少
    • 命を救う手術(医原病の可能性の低い凸な状況)
    • 法整備(科学的進歩ではなく、社会的なもの)
後件肯定
----------------------
もし P ならば、Q である。
Q である。
したがって P である。
----------------------
  • 後件肯定が起こりやすいのは生存に必要な特殊ケースのみ。過剰反応は原始の環境では役立つから。
    • 「癌で早死にする人がみんな悪性腫瘍に罹っている」→「悪性腫瘍に罹っている人はみんな癌で死ぬ」
    • 「クレタ人は全員嘘つきだ」→「嘘つきは全員クレタ人だ」
    • 「銀行家はみんな腐っている」→「腐っている人はみんな銀行家だ」
引き算こそが寿命を伸ばす
  • 進化論的な歴史によって研鑽されていない要素を取り除けば、改善する余地を残しながら、ブラック・スワンの可能性を抑えることができる。
  • 喫煙しないように呼びかけるのは、過去60年間でもっとも大きな医学的貢献。
  • 喫煙の有害性は、戦後に開発されたすべての医学治療の効果の合計とほぼ等しい。
  • 喫煙を根絶することは、あらゆる種類の癌の患者を治療できることよりも、もっと効果がある。
  • 善とはたいてい、悪がない状態にある。
  • 説くべきは幸福ではなく、不幸についてだ。「幸福の追求」よりも「不幸の回避」。
  • 昔の生活環境になかった製品を取り除く。
    • 人工的な糖、炭水化物、麦製品、牛乳などの乳製品(北ヨーロッパ系の人以外)、炭酸飲料、ワイン(アジア系の人)、ビタミン錠剤、サプリメント、かかりつけの医師、頭痛薬、鎮痛剤
  • 鎮痛剤に頼りすぎると、頭痛の原因を解消しようと思わなくなる。
お金の医原病
  • 古代ローマ人は心を落ち着けるものや静めるものを否定的にとらえていた。
    • 快適性を嫌い、その副作用を理解していた。
    • 三ツ星料理を食べるビジネスマンよりも、バゲットを食べる建設作業員のほうが幸せ。
  • 富を切り離すことで、人生がシンプルになり、健全なストレスという大きなメリットが得られる場合もある。
ランダムな栄養摂取、断食
  • 人間は、食べ物の供給や配分に対して反脆い。
  • 不規則性が薬になる。何食かをランダムに抜く。食事の内容と頻度をランダムに。
  • 人間は、草食のときは安定して食べ、肉食のときにはもっとランダムに食べる。
  • バランスの取れた栄養の組み合わせが必要だとしても、断続的ではなく毎食のバランスで栄養をとるべきだと即断するのは間違い。
    • 1日の通常摂取量の3倍のタンパク質を1日でとり、残りの2日間でまったくとらない。
  • クレタ式(地中海式)食事法
    • 健康の秘訣は、「魚・サラダ・チーズ・ワイン」ではなく、年間200日近い断食。
  • 運動というストレス = 断食というストレス
  • 【オートファジー(自食)】外部からの栄養が欠乏すると、細胞は自分自身を食べはじめる。タンパク質を分解してアミノ酸を再合成し、ほかの細胞を生成する材料にする。
  • 朝食の前に運動でもしないかぎり、朝食は有害
    • 自然界にいたころ、私たちは食べ物を得るために体力を消費しなければならなかった。食事をした後に娯楽で狩りをするわけではない。

  • 私は人間という巨大な集団のひとつの点にすぎない。 集団に命を捧げるために生きている。 子孫を残し、養い、生きるすべを教え、そして最終的に本を遺すために生きている。 不死を求めるべきなのは私の情報、私の遺伝子、私の中にある反脆いものたちであって、私自身ではない。
第7部 脆さと反脆さの倫理
第23章 身銭を切る――他人の犠牲と引き換えに得る反脆さとオプション性
  • 現代性の最悪の問題点: ある人から別の人へと脆さや反脆さが移転すること。
  • 現代社会と伝統社会の違い: 英雄的行為がなくなったこと。
  • 伝統社会では、他人のためにダウンサイドを背負う者が英雄視された。
  • 銀行家・企業幹部・政治家のように、社会から無料オプションをかすめ取る連中に、権力が渡ることが多い。
  • 英雄的行為のかけらもない「中流階級の価値観」が美化されている。
    • 懸命に働き、新聞を読み、ルールを守り、企業構造にとらわれ、上司の意見に依存し、株式投資に頼り、南国での休暇を楽しみ、住宅ローンで家を購入し、・・・
    • 科学と名のつくものを盲信し、宗教ではなく物質的な豊かさに癒やしを求める。
  • リスクを冒し、威厳を持って自分の運命と向き合えば、どうやってもあなたが小さな人間になることはない。
脆さを移転させられないための2つのヒューリスティック
(1)パイロットが搭乗していない飛行機には乗らない。 報酬と罰の非対称性、つまり個人同士の脆さの移転に対応するため。
(2)副操縦士も搭乗している飛行機にしか乗らない。 冗長性を設け、最適化を避け、リスク感受性の非対称性を緩和するため。
アンフェア
  • 意見を表明するが、その意見を信じた人が傷ついても責任は負わない。(知識人、評論家)
  • 戦争に賛成するが、先陣を切らない。
  • 評論は非対称的、行動は対称的(いいとこ取りを許さないし、無料オプションもない)。
  • 他人に意見・予測・アドバイスを求めてはいけない。単に、ポートフォリオに何があるかを訪ねればいい。
  • カモは自分が正しいことを証明しようとする。カモでないヤツらは金を儲けようとする。カモは議論に勝とうとする。カモでないヤツらは勝とうとする。
企業と職人
  • 企業が売るのはジャンク・ドリンクで、職人が売るのは上質なチーズとワイン。
  • 商業界の一番の問題: 引き算(否定の道)ではなく、足し算(肯定の道)だけで機能していること。
  • 大企業→大雇用主→国家を掌握→中小企業を犠牲にして利益を搾取(暗黙の救済保護で利益を得る)
  • 過剰なマーケティングが必要なものは、必然的に劣悪商品か悪徳商品のどちらか。
  • 企業にとって過剰なマーケティングはマナー違反 = 個人にとって過剰な自慢はマナー違反
  • 職人魂を持った企業もある: スティーブ・ジョブズ
  • 一定の仕様に対して最割安で提供するという仕組み
    • ぎりぎりチーズと呼べるだけの原料を含むゴム
  • 企業の欠陥: 企業は恥を知らない;同情心がない;道義心がない;寛容の精神がない。
  • 企業は長い目で見れば脆く、やがてはエージェンシー問題の重みで押しつぶされる運命にある。
第24章 倫理を職業に合わせる――自由と自立
倫理や信念 → 職業
職業 → 倫理や信念
  • 欲望は反脆い。欲望の犠牲になるものは脆い。
  • 現代の奴隷
    • 永遠にじらされつづける階級。
    • 地域的なレベルで特定の環境に適応すると、トレッドミル効果にさらされる。
    • 自分より華やかで機知に富む人々を目の当たりにし、自尊心を高めなければというプレッシャーを感じる。
    • トレッドミルの上にいる人など、とうてい信頼できない。
    • 人は洗脳の段階を経て、たちまち職業の奴隷になる。
  • 自分の意見を自由に言える人が自由。
  • 人間らしさの始まりは仕事にわずらわされない暇な自由人という地位。
  • 個人的・心理的なアイデンティティを仕事から得るのではなく、仕事を趣味のような付随的なものとして見る。
  • ファック・ユー・マネー、勇気、自己所有権
  • 自己所有権=普段なら絶対にしないような行動を強制させられることのない人間。
  • 詐欺的意見
    • 個人的な利益を公共の利益にすり替えたもの。
    • 本当は自分自身の利益になるのに、集団の利益になるかのように巧妙に装った主張。
  • 倫理学はどうでもいい。重要なのは、他者の犠牲の上にあるオプション性を廃絶し、そうやって反脆さを手に入れる人たちを減らすこと。これは単純な「否定の道」。あとは自然がなんとかしてくれる。
第25章 結論
  • 本物のアイディアと言うものは必ず、同じ分野の大部分の人が専門家や形骸化のせいで完璧に見落としている、ひとつの核心的なな命題に凝縮できる。
    • 形骸化けいがいか ・・・誕生・成立当時の意義や内容が失われたり忘れられたりして、形ばかりのものになってしまうこと。
  • 宗教の戒律を凝縮した命題(黄金律)=「自分がしてほしくないことを他人にするなかれ」
  • 核心的な命題・・・決して要約ではない。むしろ、泉のようなもの。
  • 本書の核心・・・すべてのものは変動性によって得または損をする。脆さとは、変動性や不確実性によって損をするものである。
  • 倫理は、主に搾取された凸性やオプション性の問題。
  • x自体を知ることはできなくても、xに対するエクスポージャーをいじり、物事をバーベル化して、牙を抜くことはできる。xが人間の理解の範疇になくても、xの関数f(x)をコントロールすることはできる。
  • グラスは死んでいる。生き物は変動性が好きだ。自分が生きているかどうかを確かめるいちばんの方法は、「自分は変化が好きか?」と自問すること。
用語集
三つ組トライアド
  • 反脆弱・頑健・脆弱。
根本的な非対称性(またはセネカの非対称性)
  • ダウンサイド(潜在的損失)よりもアップサイド(潜在的利得)のほうが大きい状況。
  • 変動性・ランダム性・誤り・不確実性・ストレス・時間 が利益になる。
プロクルステスのベッド
  • 単純化が単純かとはいえない状況を指す。
  • プロクルステス人は人々の手足を切ったり引き伸ばしたりして、ベッドにぴったりと収まるようにした。
フラジリスタ
  • 自分は状況を理解していると思いこんで、脆さを生みだす人間。
  • 変動性を好むシステムから変動性を奪い、間違いを好むシステムから間違いを奪うことで、システムを脆くする。
  • 有機体を機械や工学のプロジェクトと混同する。
「鳥に飛び方を教える」現象
  • 知識の方向性を逆転させ、「学問 → 実践」や「教育 → 富」であると思わせることで、体系的な科学が実際よりも技術の進歩に貢献しているかのように見せかけること。
観光客化
  • 人生からランダム性を吸い取ろうとすること。
  • 教育ママ、ワシントンの公務員、戦略プランナー、社会工学社、ナッジ使いなどのお得意技。
  • 【反義語】分別ある遊び人
分別ある遊び人(または単に遊び人)
  • 観光客とは違って、新しく得た情報に基づいて状況に適応していけるように、その場その場で日和見的に決断を下し、スケジュールや目的地を見直す人。
  • 【同義語】オプション性を探す人
  • 講釈に頼らない生き方。
バーベル戦略
  • 極端な安全策と極端なリスク・テイクのふたつを組み合わせる二重戦略。
医原病
  • 治療者がもたらす害。
一般化された医原病
  • 政策立案者の行動や学者の活動が有害な副作用をもたらすこと。
じらされつづける階級
  • 最低賃金を超える稼ぎがあって、なおかつもっと金持ちになりたいと願っている経済的状況。
ブラック・スワン的な誤り
  • 非予測的なプローチ
    • 変動の影響を受けないように物事を構築すること。
  • タレス的とアリストテレス的
    • テレス的な人:エクスポージャーや意思決定のペイオフに着目する。
    • アリストテレス的な人:論理や真偽の区別に着目する。
  • 事象とエクスポージャーの同一化
    • ある変数の関数をその変数そのものと勘違いすること。
自然主義的なリスク管理
  • リスク管理にかけては、合理主義の人間よりも母なる自然のほうが、はるかに成績が良いという信念。
立証責任
  • 立証責任は、自然を破壊する人々や、「肯定の道」タイプの政策を提案する人々の側にあるという考え方。
お遊びの誤り
  • 数学や室内実験の良設定問題と、生の複雑な現実世界を混合すること。
  • カジノのランダム性と実生活のランダム性を同一視すること。
反脆いいじくり回しティンカリング、ブリコラージュ
  • 一種の試行錯誤。
  • 小さな失敗が「正しい」間違いであるようなタイプの試行錯誤。
ホルミシス
  • わずかな有害物質やストレスによって、生物が刺激を受ける現象。
  • 量や強さが適切なら、生物は強く健康になり、次のもっと強い刺激に対して順応できるようになる。
浅はかな干渉主義
  • 医原病を無視した干渉。
  • 何もしないよりは何かする方がよい、さらにはそうする義務があると考えること。
浅はかな合理主義
  • 大学の構内にいれば無条件で物事の道理がわかると考えること。
  • ソビエト=ハーバード流の錯覚。
七面鳥と逆七面鳥
  • 七面鳥は1,000日間、肉屋に育てられる。1日がたつたびに、七面鳥は肉屋が「自分を傷つけない」という統計的信頼度が高まっていると確信する。でもそれは感謝祭までの話。
  • 【逆七面鳥】チャンスを無視し、金の採掘者や病の治療法の研究者が「ずっと何も発見できない」証拠があると宣言すること。
ドクサ的コミットメント(または魂を捧げる)
  • 自分の信念をはっきりと宣言し、信念が間違っていた場合には代償を払う状況に身を置くこと。
  • そういう人の予測や意見しか信じちゃいけない。
ヒューリスティック
  • 人生がラクになる単純で実用的で実行しやすい経験則。
あいまいなヒューリスティック
  • 一見すると合理的には見えないのに、ずっと昔から行われていて、どういうわけか根強く残っている社会の習慣。
ディオニュソス的
  • 一見すると非合理的で曖昧なヒューリスティック。
  • 【対義語】アポロン的
エージェンシー問題
  • 企業の経営者が真のオーナーではない状態。
  • 一見すると健全な戦略に従っているものの、実はこっそりと利益を自分のものにし、真のオーナーや社会の脆さと引き換えに反脆さを手に入れている。
  • リスクを隠しやすい。脆さの一大要因。
ハンムラビ流のリスク管理
  • リスクを先送りにする動機をなくすのが最善策であるという考え方。
  • 建築者を橋の下に住まわせる。
グリーン材の誤謬
  • 外から見えづらく、扱いづらい知識と、グリーン材の「グリーン」の意味のような知識とで、どちらが重要な知識なのかを勘違いしてしまう現象。
  • 理論化は、特定のビジネスに必要な知識に、間違った重み付けをしてしまう。
  • 私たちが「重要な知識」と呼んでいる多くのものは、実はあんまり重要じゃない。
身銭を切る(または船長と船のルール)
  • 船長は必ず船とともに沈まなければならない。
  • このルールにより、エージェンシー問題を避け、ドクサ的コミットメントを得ることができる。
エンペドクレスの煉瓦
  • 犬はいつも同じ煉瓦の上で寝る。説明可能かどうかは別として、犬と煉瓦の間に自然で生物学的な相性があるから。
  • 事実が実証。
  • 【例】人間が紙の本を読む
いいとこ取り
  • データの中から、自分の考えを証明するのに役立つものだけを選び出し、反証的な要素は無視すること。
非対称性(脆さ)の移転という倫理的問題
  • ロバート・ルービンの罪
    • オプション性の横領。
    • アップサイドだけがある戦略を取り、社会に害を及ぼすこと。
    • ルービンはシティバンクから1億2,000万ドルのボーナスを受け取り、納税者が過去にさかのぼって彼の間違いの穴埋めをしている。
  • アラン・ブラインダー問題
    • 市民を犠牲にして、過去の公職の特権を利用すること。
    • 法律を完璧に厳守しながら、倫理規範を犯すこと。「倫理的」と「合法的」の混同。
    • 取締官が、あとで自分の専門知識を民間企業に売るため、規制を複雑化しようとすること。
  • ジョセフ・スティグリッツ症候群
    • 間違ったアドバイスをし、他人を傷つけても、罪を受けないこと。
理性的なオプション性
  • ひとつの計画にとらわれることなく、発見や新しい情報に応じて、途中で考えを変えられる状態。
倫理のひっくり返し
  • 倫理に行動や職業を合わせるのではなく、倫理を行動や職業に合わせる。
講釈の誤り
  • 関連性のあるなしにかかわらず、一連の事実に物語やパターンを当てはめようとすること。
  • これを統計学に応用したものがデータ・マイニング。
講釈系の学問
  • 説得力があって耳ざわりのいい物語を過去に当てはめることで成り立っている学問。
  • 【反義語】実験系の学問
非講釈系の行動
  • 正しいかどうかが講釈によって左右されない行動。
頑健な講釈
  • 仮定や環境が変わっても、結論や行動のアドバイスがひっくり返ることのない講釈。
引き算的な知識
  • 「〜は間違いである」というタイプの知識は、ほかの知識よりも信頼性が高い。
  • 「否定の道」の応用。
否定の道
  • 神学や哲学において、「何ではないか」、つまり間接的な定義に着目すること。
  • 行動においては、何を避けるべきか、何をすべきでないかのヒントになる。
  • たとえば医療においては、何かを加えることではなく、取り除くこと。
引き算的な予言
  • 現在に何かを単純に加えるのではなく、未来から脆いものを取り除くことで、未来を予測すること。
  • 「否定のみ道」の応用。
リンディ効果
  • 技術のような壊れないものは、人間・ネコ・イヌ・トマトのような壊れるものとは違って、1日たつごとに余命が延びるという現象。
  • たとえば、100年間発行されつづけている本は、もう100年間は発行されつづける可能性が高い。
最新性愛症けつがん
  • 変化そのものを愛すること。
  • リンディ効果とは両立せず、脆さを受け入れる一種の物欲根性。
  • 引き算ではなく足し算で未来を予測する。
不透明性
  • ロシアン・ルーレットをしているとき、銃身は見えない。
  • 一般化すれば、私たちにとってずっと不透明で、理解できているという錯覚をもたらすものがある。
月並みの国
  • 大成功や大失敗がほとんどない、平凡な結果ばかりで占められているプロセス。(歯科医の収入など)
  • ひとつの観測結果が全体に大きな影響を及ぼすことはない。
  • 「シン・テール(thin tail)」や「ガウス分布族に属する」とも呼ぶ。
果ての国
  • ひとつの観測結果が全体に大きな影響を与えるプロセス。(作家の収入など)
  • 「ファット・テール(fat tail)」とも呼ぶ。
  • フラクタルな分布族や冪乗則べきじょうそく的な分布族を含む。
非線形性、凸効果(笑顔としかめ面)
  • 非線形的なものは凹、凸、凹凸混在のいずれかである。
  • 凸効果という用語は、根本的な非対称性の拡張および一般化。
  • 脆さは負の凸効果で、反脆さは正の凸効果。
  • 凸は良い状態(笑顔)、凹は悪い状態(しかめ面)。
賢者の石、または凸バイアス
  • 非線形性やオプション性から得られる利得の厳密な測定値。
  • xとxの凸関数との差。
  • たとえば、人工呼吸器の強度を変化させた場合、圧力を一定に保つのと比べてどの程度の健康上のメリットがあるかを定量化したり、不定期に空気を送った場合のメリットを計算したりできる。
  • 非線形性を無視する「プロクルステスのベッド」の問題点は、こういう凸バイアスが存在しないと仮定することにある。