- プロローグ 鄧小平時代を超える「経済革命」の革命
- 第1章 鄧小平時代以降の「革命」との決別
- 第2章 中国の経済成長は終わらない
- 第3章 激突する「旧経済」の国有企業 vs 「新経済」の民営企業
- 第4章 グローバル化はまだ序の口
- 第5章 新たな経済大革命へ:「美しい生活」は実現するのか
- エピローグ 習近平政権は難関を越えられるか
プロローグ 鄧小平時代を超える「経済革命」の革命
- 政治がすべてを決める中国では、前任者が敷いたレールを変えるために権力基盤の強化が必要不可欠。
- 17年秋の「19大」(中国共産党第19期全国代表大会)で権力の頂点に上り詰めた習近平、「新たな経済大革命」を起こす環境が整った。
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鄧小平時代 ○中国経済のパイをいち早く大きくすることを主眼。
○国民に衣食など最低限な生活を提供する。
習近平時代 ○中国経済のパイをいかに公平にかつ効率よく分配することに主眼。
○国民に「美しい生活」を提供する。
- 約40年間続いてきた改革から卒業し、新たな成長のサイクルが始まる。鄧小平を凌ぐ。
第1章 鄧小平時代以降の「革命」との決別
約40年間の改革・開放で変わる中国、変わらぬ中国
- 一期目の5年間は重苦しい雰囲気だった。
- 汚職腐敗の摘発や言論統制の強化などを通じて、権力基盤の強化にエネルギーを費やした5年間。
鄧小平時代の「改革・開放」、光と影
- 「毛沢東思想」からの解放。
- 1978年から始まり、江沢民や胡錦濤に引き継がれ、2012年秋の「18大」まで続いた。
- 最大の成果:グローバル経済における中国経済の存在感を高めたこと。
- 中途半端な改革。
- 最大の失敗:共産党幹部たちに金儲けのことしか教えなかったこと → 汚職腐敗へ
- 2001年にWTOに加盟したが、外圧を生かして市場経済体制の徹底改革を断行する最大のチャンスを逃した。
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胡錦濤・温家宝政権の10年間、改革・開放は停滞し、「中国の失われた10年」といわれている。
- 政治が既得権益グループに牛耳られ、中央政府の権威が地に堕ちた。
- → だから習近平は、権力基盤の強化にこだわる
公有制の土壌に咲く徒花 、不動産バブル
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中国の金融政策はすっかり不動産市場の「人質」に。
- 不動産市場が加熱すれば金融引締め、低迷すれば金融緩和。
地方の成長競争がもたらす、過剰という「合成の誤謬」
- 企業ではなく地方政府が中国経済の顔。
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過剰投資の問題は、地方政府が発生源。
- 人事考課の基準となる成長率目標を達成するために、過剰投資。
- 中央政府の5カ年計画を踏まえ、地方政府はそれぞれの優位性を発揮し、 補完的な役割を果たすのが中国経済にとって生産的だが、地方政府の31の5カ年計画は31の独立王国を生み出し、 中国の過剰投資(重複投資)と過剰債務の根源となっている。
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この5年間、習近平が精力的に取り込んできた課題:
市場化を定着させる環境整備として地方政府を中国経済の主役の座から下ろし、企業により大きな生存空間を与えること。
経済成長一辺倒から社会発展重視へ
中央委員会第三回全体会議(三中全会)
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中国共産党大会(5年に一度開催)で選出された中央委員と中央委員候補らによる3回目の党中央委員会全体会議。
- 一中全会は、党と人事
- 二中全会は、政府の人事
- 三中全会は、新指導部の中長期的な国家運営の基本方針が決められる
1978年12月 | 第11期三中全会 | 改革・開放への移行 |
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1993年11月 | 第14期三中全会 | 社会主義市場経済への移行 |
2013年11月 | 第18期三中全会 |
全面改革 全面的な改革の深化に関する若干の重大問題の決定。 経済改革だけでなく、国民の不満が集中している社会改革にも踏み込む。 |
2017年10月 | 19大 | 習近平思想「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」 |
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- 鄧小平が打ち出した「発展こそ硬い道理」という成長至上主義を修正。
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「中国脅威論」が呼び起こされる要因
- ソフト・パワーが中国に欠如しているから。
- ソフト・パワー:強制や報酬ではなく、魅力によって望む結果を得る能力
- 人間の自由や独創性を抑制する体制を見直さないと、中国のソフト・パワーは育たず、中国が世界から尊敬される強国になるのは難しい。
第2章 中国の経済成長は終わらない
共通点の多い1970年代の日本経済と中国
- 豊かさは、安定を求める人々を生み出し、社会を固定化し、やがて経済を停滞させる。
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胡錦濤政権
- 経済成長の持続性や質、成長と環境保全のバランスなどを重視する「科学的な発展観」。
- 成長と環境の「調和」にこだわり続けた。
- 安定を維持するため改革・開放を封印。WTO加盟のような大きな改革がない。
- 「国進民退」(国有企業が進み、民営企業が退く)
新エネルギー車
- 中国がほぼ同じスタートラインに立っているため、中国国内市場だけでなく、グローバル市場に参入する千載一遇のチャンスと捉えている。
- グローバル企業による中国市場の参入を促すことで、先進国から技術やノウハウを吸収。
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「ポーター仮説」が成立する条件が整いつつある。
- 適切に設計された環境規制は、経費削減・品質向上につながる技術革新を刺激し、 その結果、他国に先駆けて環境規制を導入した国の企業は、 国際市場において他国企業に対して競争有意を得る。
中国の労働力不足はありえない
- 経済成長はメンツのためでなく、国民の雇用と所得を改善するためのもの。
都市化の本質は所得再分配の促進
- 中国の都市化の本質:所得再分配の促進。3億人以上の出稼ぎ労働者をはじめとする農村戸籍人口に高度成長の果実を享受する権利を与えること。
- 差別的な戸籍制度(都市戸籍と農村戸籍)が所得格差の元凶。
- 投資から消費への構造転換:農村部の所得水準の底上げがカギ。
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1級大都市は社会インフラが限界。人口流入の抑制に必死。2級都市間の人材争奪戦が起きている。
1級都市(4) 北京、上海、広州、深セン 2級都市(15) 成都、杭州、武漢、天津、南京、など
イノベーションに活路を求める中国経済
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李克強はイノベーションに精力的
- インターネットプラス
- 中国製造2025戦略
- 大衆創新、万衆創業
- ↑などに向けて、規制緩和の重要性を訴え続けている。
- 産業集積や部品調達などのサプライチェーンがすでに構築されている。→人件費抑制のための海外移転は非現実的。
- 人件費高騰、出稼ぎ労働者の権利意識の高まり → 合理化や自動化、工業ロボットの導入
- 中国製造業の高度化は続き、たとえ今後賃金上昇ペースが鈍化・下落しても、再び人海戦術の時代に戻ることない。
- インターネットがなかったとしても、アメリカはたぶん相変わらず今日のアメリカだが、 中国は間違いなく今日の中国でない。
- シェアリングエコノミー(中国語:共享経済)
- 深センは異端者の町。移民の都市。「世界の工場」から「中国のシリコンバレー」への転換はまだ始まったばかり。
第3章 激突する「旧経済」の国有企業 vs 「新経済」の民営企業
- 中国は立派な社会主義国なので、国有企業が重要な地位を占めるのは当たり前。
- 「国有企業が悪、民営企業が善」という単純化は誤り。
- 国有企業の民営化は実現する可能性の低い理想論に過ぎない。
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国有企業は、共産党と国家の事業発展にとって重要な「物質的な礎」かつ「政治的な礎」。
- 【物質的な礎】税収に占める国有企業の納税額は3割。経済の生命線を担っている(金融、国防、電力、石油、石炭、通信、航空、海運)。
- 【政治的な礎】「5カ年計画」のような成長戦略を実施する際、国有企業がその実行部隊の役割を果たす。
- 2008年秋のリーマンショック後、中央政府が4兆元(57兆円)景気刺激策を発表し、中央や地方の国有企業がすみやかに実施し、中国景気をV字回復させた実績。
- 現時点で国有企業の主戦場は中国国内市場だが、今後「一帯一路」構想を通じて海外展開を狙う。
国有企業改革の虚実
習近平 | 「胸を張ってより強く、より大きく、より優秀な国有企業を目指す」 |
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李克強 | 「市場ルールに基づき、質と効率性の向上を目指すために国有企業の『スリム化』や過剰生産能力の淘汰を加速すべき」 |
- 国有企業を守る点で、両者の立場は同じ。
- 「スリム化」=国有企業は、公益性の高い産業や国民経済の生命線を握る重要な産業に専念し、非核心的な分野からは撤退すべき
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習近平政権の公約:「2020年までに経済活動における市場の役割を決定的なものにする」
- 競争を通じて、国有企業は「より強く、より大きく、より優秀」に。
「異端児」の民営企業が中国経済の主役へ
- 中国の民企業は、世界で生存能力が最も高い企業。社会主義公有制である中国で、非公有制の民営企業の存在そのものが異端であるから。
- 中国における民営企業の地位は外資系企業以下。
- 民営企業の原罪意識:民営企業といえば、権力との癒着や、不正な手段で財を蓄積してきたのではないかと考える先入観が定着。
- 憲法上、その存在すら合法かどうか曖昧だった。
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2016年11月、意見書を発表:「恒産なくして恒心なし」を引用。→ 原罪意識を抱える民営企業に対する共産党政権の特赦
- 【恒産なくして恒心なし】一定の職業や財産(恒産)を持たなければ、しっかりとした道義心や良識(恒心)を持つことはできない(孟子)
中国経済の新たなフロンティアを切り拓く民営企業
- 李克強が起業に関する規制緩和を大幅に実施。
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グローバルなユニコーン
- 中国が米国に次いで2位(214社のうち57社が中国)。2013年時点ではゼロ。
- ストックベースでは米国が圧倒的だが、フローベースでは中国が存在感を増している。
- eコマース、ビッグデータ、オンデマンド、フィンテック、人工知能など、ITベースの起業がほとんど。
- インターネットの普及と規制緩和の成果。
- 企業経営にいきなり行政が介入することが、市場関係者が一番恐れている典型的な「中国リスク」。
- 「19大」以降、民営企業に対しても企業内の共産党組織の設置が求められる。→今後の展開に注目
- ↓上海証券取引所(国有企業がメイン)
- ↓深セン証券取引所(民営企業がメイン)
- ↓売上高トップの民営企業
第4章 グローバル化はまだ序の口
内なるグローバル化が新たな段階へ
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中国の「世界の工場」の地位が脅かされていると言われているが、実際は地位を守り続けている。
人件費の上昇とともに、「世界の工場」が進化しているから。 - 輸出品目が「雑貨類」から「機械・輸送設備」にシフトしている。
- 20年間かけて作り上げてきた産業集積とサプライチェーンは、そう簡単に東南アジアへと移転できるものではない。
- 「世界の工場」の進化の原動力:内外企業による熾烈な競争
- 中国は「世界の工場」だけでなく「世界の消費市場」にも。
- ↓「世界の工場」は今も中国
- ↓「機械・輸送設備」へのシフト
中国製造2025
- 製造業の高度化を狙う長期戦略。
- イノベーション能力、資源の利用効率、産業構造、情報化、品質や効率などの面で世界先進レベルへ。
- 背景と狙い:先進国の製造業の国内回帰 → 危機感 → 国内製造業を量から質へ転換
- 中国はまだ「インダストリー2.0」。「跨越発展」で「インダストリー4.0」を目指す。
2025年まで | 製造業のデジタル化、ネットワーク化、知能化、イノベーション能力、省エネなどを推進し、世界製造業強国の仲間入りを実現。 |
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2035年まで | 重点分野について重大な突破を実現させ、世界製造業強国の中における中国の位置を中等レベルに引き上げる。 |
2049年まで (中国建国100周年) |
世界をリードする技術体系や産業体系を構築し、世界製造業強国の上位を目指す。 |
- 【懸念も】半導体メモリー、工業ロボット、新エネルギー自動車などの先端的な製造業が、 数年後には過剰能力を抱える産業となるのか、採算性を度外視する無駄な投資が新たな不良債権となるのか。
中国企業の海外進出が止まらない
- 2016年、対外直接投資額が初めて対内直接投資額を超えた。
- 中国企業の海外進出はまだ始まったばかり。海外企業の吸収・合併がこれからさらに増える。
- 成功例)吉利のボルボ買収
「一帯一路」は壮大なロマンに終わらない
- 【狙い】新たな成長のフロンティアとして、中国より所得水準の低い地域の市場を開拓。
- 「一帯一路」構想は、「野心的な戦略」ではなく「同好会」。
- 「一帯一路」構想は、投資や関税などに関する合意事項が一切ない。=同窓会
- 目指しているのは、「来るものは拒まず、去るものは追わず」といった開かれたプラットフォーム。
金融市場のグローバル化をリードする香港の役割
- 中国が本気でグローバル化を目指すなら、経済規模をどんどん大きくするのではなく、実体経済と金融の間に存在する大きなギャップを埋めることが課題。
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人民元の国際化
- 基軸通貨を目指す野望ではない。
- リーマンショックを教訓とした、過度なドル依存からの脱却。
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2017年5月に発表された米中の「100日計画」
→これを契機にトランプの攻撃がトーンダウン- 海外格付け会社に市場を開放
- 2社の米金融機関に銀行間の債券引き受けと決済業務のライセンスを付与する
- 米系クレジットカード会社の全面テコンあ市場参入を許認可
- ↑金融ビジネスで、米国は中国に太いパイプを持っているから実現。
第5章 新たな経済大革命へ:「美しい生活」は実現するのか
共産党「18大」から始まった政治の季節
- 「18大」から5年、中国の雰囲気が一変した。 政治がいつの間にか国民の最大の関心事になった。 文化大革命の再来を懸念する声も高まっている。
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政府の汚職腐敗
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学生たちの不満が爆発
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1989年6月、天安門事件
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1992年、鄧小平の南巡講話
↓
経済発展が最優先
政治革命は完全にタブー視
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汚職腐敗が加速
↓
習近平の反腐敗運動
- 今回の反腐敗運動は、期間の長さ、範囲の広さ、処分された関係者の数、いずれも想定を超えている。→政治状況が様変わり
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文化大革命が再来しない理由
- 中国経済がすでにグローバル経済に組み込まれているため、いまさら鎖国できない。
- 当時と違い、中国人は外の世界を知っている。
9つの階層をまとめるのは経済成長しかない
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「毛沢東思想」が中国を立ち上げさせ(社会主義中国を誕生させる)、
「鄧小平理論」が中国を豊かにさせ、
「習近平思想」が中国を強くさせる。 -
中国の先行きが不安視される理由
- 投資や債務依存型の成長パターンが持続性を欠いていること
- 過去40年間の高度成長の果実の分配が不公平だったため、中国経済・社会の安定を支える礎となる中間層が育たなかったこと
- ↓9つの階級
上流層 | 最大の既得権益者。改革より安定。 |
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中流層 |
4級:上流層との癒着。改革に消極的。 5級6級:現状を変えたい意欲が最も強いが、改革を求める声は上流層に届かず、現状に甘んじる。 |
下流層 | 奇跡が起きないかぎり、中流層への仲間入りは不可能。 |
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政府が毎年、経済成長率目標の達成にこだわる理由
- 7級と8級を、9級に転落させないのが目的。
- 9級は暴動や革命を引き起こす不安要因。
- 習近平の反腐敗運動は、聖域の「上流層」にまで切り込んだため評価されている。
都市化の進展を妨げる社会保障の格差問題
- 農業の近代化が遅れている一番の理由は「生産請負制」。土地を家族単位に小分けにした結果、大規模農業が難しくなっている。
- 三農問題:「農民は本当に苦しい、農村は本当に貧しい、農業は本当に危ない」
- 貧困のため栄養失調、絵本が買えない → 子どものIQが低い → 高校に進学できない → 4億人の認知能力が低下
- ↑中国がアフリカに援助する一部の資金を、農村部の子どもたちの栄養事情の改善に投入すれば簡単に解決。
すべての国民に尊厳のある生活を
- 2期目の習近平のメインテーマは「民生」。
「小康社会」 (ややゆとりのある社会) の実現 |
「社会主義近代化強国」 の実現 |
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鄧小平の「三段論」 | 習近平の「三段論」 (19大にて披露) |
一人当りGDPを250米ドルから500米ドルへ |
2020年までに「全面的な小康社会」の実現 (一人当りGDPを倍増) |
2000年までに1000米ドルへ |
2035年までに社会主義現代化の基本的な実現 (法治国家、公共サービスの均等化、環境問題解決、イノベーション先進国) |
2050年までに4000米ドルへ |
2039年までに社会主義現代化強国の実現 (統治能力の近代化、リーダー的な国) |
「19大」後の中国経済のメインシナリオ
- 「習近平思想」を武器に、民間主導で量から質へ、投資から消費へ、旧経済から新経済へと、新たな経済大革命を引き起こす。
- 中国経済のグローバル化は、内なるグローバル化へシフトしていく。
- スケールの大きさやグローバル経済へのインパクトの強さなど、習近平の新たな経済大革命は、鄧小平の改革・開放を凌ぐ。
- 貧困問題や「中所得国の罠」を克服しなければならない。
- 旧経済が残した負の遺産である、過剰生産能力、過剰債務、過剰雇用を清算しなければならない。
エピローグ 習近平政権は難関を越えられるか
- 鄧小平が残した負のレガシー =腐敗
- 経済成長至上主義がもたらしたさまざまな弊害が表面化
- タブーへの挑戦を試みた習近平
- 習近平思想「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」
- 権力の頂点に上り詰めた習近平 = 鄧小平の負のレガシーを清算し、鄧小平時代に匹敵する「経済大革命」を実行するのが狙い
- 中央から地方まで、習近平の集権体制 → 江沢民や胡錦濤ができなかった「量から質への転換」が期待できる
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「新たな経済大革命」の目標
- 中間層を拡大させるための所得再分配
- イノベーションを重視する「社会主義強国」の建設