- 第1章 経済的自由と政治的自由
- 第2章 自由社会における政府の役割
- 第3章 国内の金融政策
- 第4章 国際金融政策と貿易
- 第5章 財政政策
- 第6章 教育における政府の役割
- 第7章 資本主義と差別
- 第8章 独占と社会的責任
- 第9章 職業免許制度
- 第10章 所得の分配
- 第11章 社会福祉政策
- 第12章 貧困対策
- 第13章 結論
第1章 経済的自由と政治的自由
The Relation between Economic Freedom and Political Freedom
The Relation between Economic Freedom and Political Freedom
-
経済活動をうまく調整する方法
- 強権を発動して上から命令する、軍隊や近代の全体主義国のやり方
-
個人が自発的に交換し助け合うやり方
- 自発的協力を通じた調整が可能なのは、双方が十分な情報を得たうえで自発的に行なう限り、経済取引はどちらにも利益をもたらすという基本的な了解が存在するから。
- 自由な民間企業による交換経済=競争資本主義
-
自由市場が存在するからと言って、けして政府が不要になるわけではない。
- ゲームのルールを決める議論の場として、また決められたルールを解釈し施行する審判役として、政府は必要不可欠。
-
経済的な力は分散が容易。政治的な力は分散化が難しい。
- 実業家の共存は可能だが、政治的権力者や組織の共存は難しい。
- 中央政府が権力を握る時は、地方政府は弱体化する。
-
【自由な社会の特徴】社会体制の大胆な改革を堂々と主張し宣伝する自由が個人に保証されていること
- 資本主義社会では、公然と社会主義を主張し運動を組織してよい。
- 自分の思想を広めようとして資金集めをするとき、気前のいい資産家を何人か説得できればそれで事足りる。
- 人格を持たない市場は、経済活動を政治的意見から切り離す。そして経済活動において、政治的意見や皮膚の色など生産性とは無関係な理由による差別を排除する。
- 競争資本主義から最も恩恵を受けるのは少数集団。
第2章 自由社会における政府の役割
The Role of Goverment in a Free
The Role of Goverment in a Free
ルールの決定と審判
-
自由社会において政府が果たす基本的な役割
- ルールを変える手段を用意すること。
- ルールの解釈を巡って意見が対立したときに調停すること。
- 放っておくと試合を放棄しかねないメンバーにルールを守らせること。
-
自発的な交換を通じた経済活動では、政府がそのための下地を整えることが前提となる。
具体的には、法と秩序を維持し個人を他者の強制から保護する、
自発的に結ばれた契約が履行される環境を整える、
財産権を明確に定義し解釈し行使を保障する、
通貨制度の枠組みを用意する、
ことが政府の役割となる。
技術的独占と外部効果
-
市場でできなくはないが主に技術上の理由から市場ではうまくいかないことも、政府にやってもらうほうがいい。
↑
自発的な交換に法外な費用がかかるか、事実上不可能なケース
↑
そこには「技術的独占」と「外部効果」が存在する。
自発的な交換 を妨げる要因 |
技術的独占 |
生産者や運営者が一社である方が圧倒的に効率がよいという理由から発生する独占。 例)電話サービスなど。 ただし、技術的理由があったとしても、参入を違法化することは正当化できない。 |
---|---|---|
外部効果 |
対価や賠償を請求することができない効果。 第三者におよぼした影響を把握しにくく、影響の度合いを数値化しにくい。 例)川の汚染(下流の人が上流の人に賠償を求めるのは難しい) 例)高速道路、公園 |
温情的配慮
-
自由は、責任ある個人だけが要求できるものである。狂人や子供の自由に正当性があるとは考えない。
↓
責任をとれないとみなされた人たちに、政府が否応なく温情的干渉をしてくる。
- 例)狂人に自由を認めたくはないが、射殺したくはない。→狂人の世話は政府を通じて行なうのが望ましい。
結論
- 自由主義者は、けっして無政府主義者ではない。
-
政府がやる理由はないと思われるもの
- 農産物の買取保証価格制度
- 輸入関税または輸出制限
- 産出規制
- 家賃統制、全面的な物価・賃金統制
- 法定の最低賃金や価格上限
- 細部にわたる産業規制
- 連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制
- 社会保障制度、とくに老齢・退職年金制度
- 事業・職業免許制度
- 公営住宅、住宅建築を奨励するための補助金制度
- 平時の徴兵制
- 国立公園
- 営利目的での郵便事業の法的禁止
- 公有公営の有料道路
第3章 国内の金融政策
The Control of Money
The Control of Money
-
大恐慌も、他の時代に発生した大量失業も、実際には政府の経済運営の失敗が原因で発生した。
けっして市場建材が本質的に不安定だからではない。 - 経済に関して政府の重要な役割 = 安定した通貨の枠組みを用意すること
- 通貨発行権を握っている限り、承認など得ずに税を徴収することができてしまう。権限を制限することが重要。
-
自由主義が根本的に恐れるのは、権力の集中である。
ある人の自由が他の人の自由を妨げない限りにおいて個々の人の最大限の自由を守ることを、自由主義者はめざす。
この目標を実現するためには権力の分散が必要だというのが自由主義者の考えだ。
市場を通じてできることを政府がやっているとしたら、何にもよらず疑ってかからなければならない。
そこでは自発的な協力に代わって強制が行われているのが常だし、政府の役割が拡大すれば、他の分野でも自由が脅かされかねないからである。
商品本位制
- 商品本位制 =金、銀、タバコ、ブランデーといった品物が貨幣として使用される
-
商品本位制の根本的な欠点
- 通貨供給量を増やすには、実物の資源が必要だということ。
→ 信用貨幣は、たとえ当初は民間が発行したものであっても、いずれ政府が管理するようになる。
金融当局の裁量権
- 大恐慌は、市場経済が本質的に不安定であることを示すものではない。 大恐慌は、一握りの人間が一国の通貨制度に強大な権限を振るうとき、そこでの判断にミスがあったらどういうことになるかを示したのである。
金融政策のルール化
-
望ましいのは、
政府の無責任な干渉を受けない安定した制度、
市場経済に必要な通貨の枠組みは用意するが、経済的・政治的自由を脅かすような権力を生まない制度。 - 唯一有望な方法は、金融政策のルールを法制化し、人間の裁量ではなく法律の規定に従った政策運用を行なうこと。
-
個々のケースを取り上げて検討する場合には限られた範囲にしか目が届かず、
全体像が視野に入らないため、不適切な決断を下してしまう危険性が高い。
これに対してあらゆるケースを網羅的に想定したおおまかなルールを決めておけば、 人々の行動や期待に好ましい影響がある。-
「言論の自由」というおおまかなルール
- (×) 言論の自由への干渉を一律に禁止するのはおかしい、個々のケースごとに吟味して決めればよいではないか、という主張
-
金融政策にもおおまかなルールが必要 → 通貨供給量についてのルール
- 通貨供給量の伸び率を決めておき、毎日の推移を調整する。
-
「言論の自由」というおおまかなルール
第4章 国際金融政策と貿易
International Financial and Trade Arrangements
International Financial and Trade Arrangements
国際通貨制度と経済的自由
アメリカの通貨制度と金
経常収支と金の流出
国際収支と均衡化メカニズム
アメリカが外貨準備を取り崩すか、外国にドルの準備を増やしてもらう |
アメリカの物価を他国より押し下げる |
物価ではなく為替の変動で同じ効果を上げる |
政府による貿易統制や介入 |
自由市場と変動相場制
自由な金・為替取引を実現する政策
貿易統制の撤廃
- 関税は、課される国のみならず課す国にとっても有害なのである。
- 他の国が関税を撤廃せずアメリカだけが関税を撤廃しても、メリットは多い。
- アメリカは一方的に自由貿易に移行する方が、あちこちの国と二国間交渉するよりずっといい。
- アメリカは大国なのだから、こちらがルクセンブルグ製品の関税を引き下げる前に相手に引下げを要求するような真似をすべきではない。
- 相手国にいやいや追随するのではなく、大国の宿命を受け入れ、模範を示そうではないか。
-
一切の輸入割当や数量制限は、年20%ずつ緩和する。一切の関税は年10%ずつ引下げていく。
こうした措置をとれば、アメリカは矛盾なく信仰を貫き、世界に向かって次のように宣言することができる:
「アメリカは自由を信奉し、自由を実現する。
自由を強制することはできないから、
自由を選ぶかどうかはそれぞれの国にお任せしよう。
だが、アメリカはどの国とも平等な条件で取引しよう。
アメリカ市場はすべての国に開かれている。
売れるもの、売りたいものを売ってよろしい。
売って得た代金で買いたいものを買ってよろしい。
こうして個人同士の自発的な取引が世界に広く自由に行き渡るのだ。」
第5章 財政政策
Fiscal Policy
Fiscal Policy
誤った主張 |
何かのきっかけで民間支出が落ち込んだら、政府が支出を増やす。 逆に民間支出が増えたら政府は手控えるという具合にして、総支出ひいては経済の安定化を図るべきだ。 |
---|---|
誤り である理由 |
景気後退が起きるたびに、それがどんな小幅の後退でも、小心な政治家や役人は震え上がる。 そこで大急ぎで何かしらの公共事業を計画し法案を成立させる。 ところが実施される頃には、景気後退は終わっていることが多い。 となれば、政府の支出は景気後退を和らげるのではなく、その後の景気拡大を一層刺激する役割を果たすことになる。 しかも景気後退期の支出がすぐさま承認されるのに対し、後退期が終わって拡大期に入ろうというときにすぐさま取り消されるわけではない。 それどころか、せっかくの健全な景気拡大を政府支出の打ち切りで「邪魔してはいけない」という議論がまかり通るようになる。 →国の公共事業のとめどない拡大を促し、税負担の軽減を妨げてきた。 |
第6章 教育における政府の役割
The Role of Government in Education
The Role of Government in Education
基礎教育
- 最低限の学校教育を義務づけることと、この義務教育の費用を国家が負担することは、どちらむ学校教育の外部効果を考えれば妥当。
- しかし、学校の運営そのものを政府が行うこと、すなわち教育産業の大部分を国営・公営にすることは、外部効果によっても、まったく正当化できない。
-
政府は最低限の学校教育を義務づけたうえで、子供一人当たりの年間教育費に相当する利用券、すなわち教育バウチャーを両親に支給する。
政府の役割は、学校が最低基準を満たすように監督することに限る。 - 政府が投じている学校教育予算を学校ではなく両親が利用できるようにし、どこの学校へ通わせてもかまわないようにしたら、需要に応えようとさまざまな学校が登場するだろう。
- 【公立学校と私立学校の共存】私立学校を選ぶ親には公立学校の学費に相当するバウチャーを支給し、バウチャーは政府が認定した学校で使うことを条件とする。
- 政府に金を出させたら、口も出してくる。
- 労働者の大半は給与の均等化を歓迎し、能力給に反対する。とびぬけて優秀な人はそうはいないのだから。
大学教育
職業教育・専門職教育
- 職業教育・専門職教育に、基礎教育が持つ外部効果はない。機械や建物など物的資本への投資と基本的に同じ。
- 将来の稼ぎ以外に何の保証もないような個人の職業教育に融資するおは、不動産や設備への融資に比べるとはるかに魅力に乏しい。
- 将来の収入だけを担保に教育費を貸し付けた場合、相当額が貸倒れに終わりかねない。
-
【持ち分投資契約を個人と結ぶ(個人版の株式会社)】
貸しては、個人の将来所得の持分を買う。
必要な教育資金を貸し与え、将来の所得から一定比率を返済してもらう。
一種の出世払い。
株式ポートフォリオを組むように、いろいろな投資相手を組み合わせればよい。
-
職業教育・専門職教育に補助金を出すのは間違い
- 補助金を獲得できた人は、リターン(高い報酬)をまるまる懐に入れ、コストの方は納税者が負担する。
第7章 資本主義と差別
Capitalism and Discrimination
Capitalism and Discrimination
-
一般にどんな社会でも、独占に近いことが行われている分野では差別が続きやすい。
これに対して自由な競争が行われている分野では、人種や宗教の違いによる差別は起きにくい。 - 市場のおかげでいまのように差別が減ったのだということを認めようとせず、なお残る差別は市場に原因があると思い込んでいる。
- 市場では経済効率が最優先され、それと無関係の要因は切り離される。
- 市場には、個人に備わったさまざまな属性から生産性だけを切り離す働きがある。
- 差別をする人は、その代償を払わされる。輸入品に高い関税をかける国は他国を不利にするが、自国にも不利になる。
-
差別とは、所詮は受け入れがたい他人の「好み」にほかならない。
- 歌手Aの歌を聴くため、歌手Bの演奏会より高い料金を払う →差別とは言わない
- 人種Aのサービスを受けるため、人種Bのサービスより高い料金を払う →差別とみなされる
公正雇用慣行法(FEPA)
- 公正雇用慣行法(人種・宗教などの雇用上の差別を取り締まる法)は、個人が自発的な雇用契約を取り交わす自由を明らかに侵害している。
-
2通りの損害
強制による損害 暴力を振るわれる、脅されて契約に著名させられる 強制によらない損害 契約交渉で双方が合意にいたらないときなどに発生 -
損害を強制されたのであれば、強制力の行使を防ぐために政府を活用するのは妥当といえる。
だが、強制されてもいない損害を防ぐのに政府を使う理由は何もない。
むしろ政府の介入は自由を損ない、自発的な協力の余地を狭める。
- 何が公正な言い分かをその時々の多数派が決めるような社会はよくない。
- 市場では、はじめは少数派の意見もやがて多数派になり、万人に近い支持を得るチャンスがある。
- その時々の多数派が、この意見は妥当だとかそうでないとか決めるのは望ましくないのと同じように、 人間のこの属性は雇用の基準として妥当だとかそうでないとか決めるのは、望ましくない。
労働権法
学校教育における人種分離
第8章 独占と社会的責任
Monopoly and the Social Responsibility of Business and Labor
Monopoly and the Social Responsibility of Business and Labor
独占の実態
独占の 問題点 |
個人の選択の幅が狭まり、自発的な交換が制限される。 |
---|---|
独占社の「社会的責任」が問われるようになる。 |
独占の 種類 |
産業の独占 | |
---|---|---|
労働の独占 | 労働組合は雇用を歪めてあらゆる労働者を巻き添えにし、 ひいては大勢の人々の利益を損なっただけでなく、 弱い立場の労働者の雇用機会を減らし、 労働階級の所得を一段と不平等にしてきた。 | |
政府が関与する独占 |
独占の原因
独占の 原因 |
技術的要因 | 一社が運営するほうが効率がよく経済的だという場合(電話、水道) |
---|---|---|
政府の支援 |
関税※、税構造、労働争議法 ※自由主義者が問題にする単位はあくまで個人であって、どの国の国民かということは問題ではない。 |
|
談合 | アダム・スミス「同業者が集まれば、たとえ楽しみや気晴らしのための集まりであっても、結局は毎回のように世間を欺く策略の話、つまり値段を吊り上げるうまい手はないかといった話になるものだ」 |
政府に望まれる施策
- 独占を根本から防ぐもっとも効果的な手段は、税制改正。法人税は廃止すべき。
-
企業は配当として払い出さなかった利益も株主の所有に帰すべき。
株主は、配当金だけでなく、自分のものではあるが配当されなかったこの利益も、所得税の申告に含めなければならない。 - 累進性も問題。強い累進構造は、税回避行動を招き、資源の効率的な活用を阻む。
企業と労働組合の社会的責任
企業の責任 | 市場経済において企業が負うべき社会的責任は、 公正かつ自由でオープンな競争を行うというルールを守り、 資源を有効活用して利潤追求のための事業活動に専念すること。 |
---|---|
労働組合の責任 | 組合員の利益を追求すること。 |
私たちの責任 | 自分の利益を追求する個人が「見えざる手に導かれて、自分では考えてもいなかった目的へと向かう」ような法的枠組みを整えること。 |
- 企業経営者の使命は株主利益の最大化。
- それ以外の社会的責任を引き受ける傾向が強まることほど、自由社会にとって危険なことはない。
- 社会的責任は自由を破壊する。
- 一企業の一介の経営者に、何が社会の利益になるのかを決められるのだろうか。
- 企業経営者は株主の
僕 ではなく社会の僕だというなら、民主主義社会においては、選挙を経て任命される公的手続きの対象となるべきだろう。
第9章 職業免許制度
Occupational Licensure
Occupational Licensure
経済活動に対する政府規制
- 職業免許制度、関税、独占禁止法、輸入割当、生産割当、ユニオンショップ制などは、どれもギルド制やカースト制と根は同じで、個人同士が何らかの取り決めをするときの条件を政府が決めている。いずれも生産者を守るための措置。
- 免許化を求めて圧力をかけるのは、まずまちがいなく当の職業に就いている人たち。
- 生産者は消費者より従党を組んで政治的な力を持ちやすい。私たちは消費者としての活動よりも生産者としての活動の方に多くの専門知識を持ち、労力を注いでいる。
- 利益集団の力に対抗するには、「これこれの事業は国がやるべきではない」という認識が広く浸透することしかない。
免許制度の問題点
-
職業規制の3つの段階
登録制 ○何らかの職業に就くにあたり、使命の登録が義務付けられる制度。
○希望者は誰でも登録することができる。
○登録料や登録税など何らかの料金を徴収されることはある。認定制 ○ある人がある技能を備えていることを政府機関が認定する制度。
○認定証を持っていない人がその技能を使う職業に就いてもかまわない。
○会計士など。免許制 ○監督当局から免許を取得しないとその職業に就くことができない。
- 登録制なら自由主義の原則と矛盾なく正当化できる。
-
自由主義者にとって妥当と認められる免許制の根拠
- 外部効果・・・ヤブ医者が伝染病を野放しにするケース
-
免許制度支持者が主張している免許制の根拠
- 温情的配慮・・・医学の心得がない人は医者の選択にかけては無能力
- 職業規制の社会コスト・・・その職業に就いた集団が、それ以外の市民を犠牲にして独占に突き進む手段となり得ること
- 無知な一般市民には腕のいい職人を見抜けないと言うなら、必要なのは、誰の腕がいいのか情報を公開すること。
医師免許制度
- ある専門職に従事する人を制限する効果的な方法は、専門職大学院で入学制限。
-
職業の技術効率と経済効率の混同
- 職業の技術水準にこだわるあまり、一流の技術を持つ者しか認めるべきでないという主張。
- ↑ 一部の人が医療を受けられなくてもやむを得ないと言っているのと同じこと。
- 他の人でも問題なくこなせる「医療行為」に正規の医師がかなりの時間を割くことになり、本来の医療行為に充てる時間は大幅に減る。
-
医師免許性とそれに伴う職業の独占が医療の質を低下させる理由
- 医師の数が減ること
- 重要でない仕事に正規の医師のかなりの時間がとられること
- 研究や実験に時間を割く意欲が失われることによって医療の質が低下すること
- 医療過誤を起こしても、賠償を払わずに済むケースが多いこと
- 不正や過失により他人を傷つけた場合には法的責任と賠償責任を問われることを条件に、 誰もが自由に医療行為をしてよいとしよう。 すると、医療の発達はいまとは全然違ったものになっていただろう。
- 免許制などの仕組みは実験や研究開発の余地を狭める。 これに比べると市場は多様性に対して寛容で、専門知識や専門能力が広く活用される。 市場では、特定集団が新しい試みを妨害することはできない。 市場では、どれが一番いいかを選ぶのは消費者で合って、けっして生産者ではない。
第10章 所得の分配
The Distribution of Income
The Distribution of Income
分配の根拠
-
不確実性を回避するための試み
- リスクの高い事業を営む者がいなくなってしまう。
-
事後の課税は妥当でない
- 累進課税が課されるのは、人生の宝くじの結果が出た事後。
- 累進課税に賛成するのは、宝くじにハズレた人たち。
生産に応じた所得分配が果たす役割
分配の実態
- 資本主義が進んだ国ほどいわゆる資本運用による所得は小さく、労働の提供による所得が大きくなる。
- 資本主義社会のほうが他の体制の社会よりも所得や富の不平等が少ない。
-
過去一世紀にわたる進歩と発展の最大の特徴
- (1) 大衆が重労働から解放されたこと
- (2) それまで富裕層に独占されていたモノやサービスが大衆の手に入るようになったこと
- ※超のつく富裕層が享受していた贅沢も、技術の進歩のおかげで、形こそ違え大衆の手に届くものになった。(給水・給湯設備、自動車、テレビ、など)
- 資本主義でない社会では、年間所得で比較しても所得格差が大きく、さらに格差が恒常化する傾向がある。 これに対して資本主義社会では身分や階級は崩壊し、流動性が高まる。
所得再分配政策
- 累進制の所得税と相続税が達成できた所得格差の縮小は、かなり小さい。
-
累進制の効果は2通りの方法出打ち消されてきた。
-
課税前の分配が一段と不平等になった。
-
高い税金が課せられるような行動にはリスクや金銭以外の不利益が伴うため、参入する人が少なくなる。
→ そうした行動のリターンが高まる。
-
高い税金が課せられるような行動にはリスクや金銭以外の不利益が伴うため、参入する人が少なくなる。
-
税金を回避するためのさまざまな措置が次々に制定されるようになった。
- 税控除、優遇税制、課税免除
- 税の帰着が不公平に裁量的に決められるようになった。
-
課税前の分配が一段と不平等になった。
- もし累進税制が徹底的に適用されたら、勤労意欲が削がれ、社会の労働生産性は急降下しかねない。
- 累進税は、すでに裕福な人よりも、これから富を築こうとする人にとって重荷になる。
- 要するに累進税は、既存資産の所有者を挑戦者から守る役割を果たす。
-
個人所得税の理想
- 基礎控除を上回る所得に対する一律税率の適用
- 対象となる所得はできるだけ広げる一方、控除の対象は厳密に定義した必要経費に限る。
- 法人税は打ち切る。(企業の所得は株主のものであり、納税するのは株主。(第5章))
- 各種控除の廃止。
- → 節税対策に躍起になる理由が減る。
- → 勤労意欲が削がれることがなくなるため、資源が有効活用され、所得も増える。
第11章 社会福祉政策
Social Welfare Measures
Social Welfare Measures
社会保障政策以外の福祉政策
-
公営住宅
- 現物ではなく現金の方が役立つ。
- 公共計画を支持する市民の関心は広く薄く分散していて一時的。計画で利益を受ける集団の影響力が圧倒的に大きくなる。
-
最低賃金法
- 明らかに貧困を増大させた。
- 助かる人は目に見える(賃金が上がった人、公営住宅に入居できた人)。かえって被害を受けた人は見落とされる(失業に追いやられた人々)。
- 最低賃金法の支持者は利害関係のない善意の第三者ではなく、利害関係のある集団。南部からの競争を抑え込むため、北部が最低賃金法に賛成。
- 農産物価格支持制度
老齢・遺族年金
-
年金事業の国営化は、自由主義の原則からはもちろん、福祉国家論者の立場からしても、とうてい認められない。
- 政府が市場よりうまくサービスを提供できると福祉国家論者が考えるなら、政府に民間と競争させて年金商品を販売させるべき。 彼らが正しければ、政府の年金事業は十分に儲けを上げるだろう。 まちがっていれば、民間の参入を許すほうが国の福祉は向上する。
- 年金の強制加入=「国民はすぐ先のことしか考えられないから」←筋金入りの温情主義者(独裁主義に与している)
- 自由を信奉するなら、過ちを犯す自由を認めなければならない。
- 人が自ら選んだことを強制的にやめさせる権利はどこにもない。
- 自由主義者は謙虚を身上とする。傲慢は温情主義者にゆずろう。
第12章 貧困対策
The Alleviation of Poverty
The Alleviation of Poverty
- 外部効果:困窮した人が物乞いをする様子を目にしたくないので、事情が改善されれば恩恵を受ける。
- 特定の職業・年齢層・賃金層・労働団体・産業に所属する人を助けるのではなく、あくまで貧しい人を助けるようなプログラムを設計すべき。
- 価格支持制度、最低賃金法、関税、老齢年金制度は失格。
-
機械的に運用できるという点で最も望ましいのは、負の所得税。
所得が基礎控除をxxxドル下回る場合、負の所得税を払う。
メリット:- 貧困の救済のみを目的としている。
- 誰にとってもいちばん使い勝手のいい形、すなわち現金で補助する。
- 汎用的である。さまざまな政策をこれ1本に置き換えることができる。
- 社会が負担するコストがはっきりする。
- 市場の外で機能するので市場を歪ませることはない。
- 他の救済策と同様に貧しい人々の自助努力をいくらかは削ぐものの、完全に失わせることはない。稼げば稼いだ分だけ支出に回すことができる。
自由主義と平等主義
- 自由主義思想の根本にあるのは、個人の尊重。
- 各自が自分の考えに従ってその能力と機会を最大限に生かす自由を尊重し、 このとき、他人が同じことをする自由を阻害しないことだけを条件とする。
- ある点では平等を、ある点では不平等を支持する。
- 自由主義者は、権利の平等・機会の平等と、物質的平等・結果の平等との間に厳然と一線を引く。
- 自由な社会が他の社会より多くの物質的平等をもたらすのはよろこばしいことではあるが、 自由主義者にとってそれはあくまで自由社会の副産物であって、 自由主義を正当化するものではない。
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貧困をなくすための政府の事業も、多くの市民にとっての共通目標を達成する効率的な手段として、自由主義者は是認するだろう(自発的な行動ではなく政府による強制に委ねることを残念に思いながら)。
平等主義者が「誰かから取り上げて別の誰かにあげる」ことを認めるのは、 目標を達成するための効率的な手段だからではなく、「正義」だからなのだ。
第13章 結論
- 政府の施策が持つ重大な欠陥は、公共の利益と称するものを追求するために、市民の直接的な利益に反するような行動を各人に強いること。
-
このような施策は反撃を食う:
人類が持っている最も強力で創造的な力の1つ、 すなわち人々が自己の利益を追求する力、 自己の価値観にしたがって生きようとする力 の反撃に遭う。