- 序 章 生き残る次世代通貨は何か
- 第1章 謎だらけの仮想通貨
- 第2章 仮想通貨に未来はあるのか
- 第3章 ブロックチェーンこそ次世代のコア技術
- 第4章 通貨の電子化は歴史の必然
- 第5章 中央銀行がデジタル通貨を発行する日
- 第6章 ブロックチェーンによる国際送金革命
- 第7章 有望視される証券決済へのブロックチェーンの応用
序章 生き残る次世代通貨は何か
1. 過大評価されている仮想通貨?
- 一部の人が承認作業とその報酬を独占し、一握りの人が多くのビットコインを保有している構造。 皆でビットコインの仕組みを支えていくという当初の理念が実現しておらず、健全なコミュニティ作りがうまくいっていない。
2. 期待が高まるブロックチェーン
3. 中央銀行によるデジタル通貨発行への取組み
4. ブロックチェーンがつくる新たな未来
- ビットコインは、通貨のあり方を根本から変えるといった「次世代の通貨」にはならない。金融のメインストリームとしての存在にはなりえない。
- ブロックチェーンは、金融やビジネスの仕組みに革命を起こす「本物の技術」。
第1章 謎だらけの仮想通貨
1. すべての始まりはビットコイン
- 法定通貨には「強制通用力」(受取側は支払いを拒否できない)があり、このため「一般的受容性」という性質がある。
2. ビットコインはどうやって使うのか
-
P2P型ネットワーク
- 取引が行われると、その情報を共有するために、取引内容が「ブロードキャスト」という方法でメンバー全員に向けて同時に通知される。
3. ビットコインを支える不思議なメカニズム
- ビットコインでは、デジタル署名をチェーン状につなげていくことによって、受渡しの正当性を確認することが基本原理となっている。
-
プルーフ・オブ・ワーク
- 「前のブロックのハッシュ値 + 取引データ + ナンス値」から新奇ブロックのハッシュ値を求め、 そのハッシュ値が「先頭に一定数のゼロが連続して並んでいる」ようなナンス値を求めること。
-
ビットコインは、
- 暗号技術
- ブロックチェーン技術
- プルーフ・オブ・ワーク
4. ビットコインの新規発行「マイニング」の仕組み
- 「ビットコインの安全性」「マイニング」「新規通貨の発行」が表裏一体の関係にある。
-
ビットコインの、通貨としては常識破りな特徴
- 中央管理者がいない
- 誰の負債でもない
- 計算に成功すると報酬として新規発行された通貨がもらえる
5. 1000種類以上もあるビットコイン類似の仮想通貨:アルトコイン
6. ビットコインは果たして通貨か?
法的な 側面 |
「決算手段の1つ」として正式に認められており、「通貨」ではないが、「通貨に準ずるもの」として位置付けられている。 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
金融的な 側面 |
|
- マイナーがマイニングで得たビットコインを市場で次々と売却し、それをパッシブ投資家が投資目的で次々に購入している図式が、ビットコイン市場の中心的な構図。
第2章 仮想通貨に未来はあるのか
-
さまざまな課題や問題点があるため、ビットコインの将来性は厳しい。
- ダーティなイメージの広がりと信頼性の低下
- 保有・採掘・取引構造の偏り
- 発行上限やリワード半減の仕組みのもつ弊害
- ブロックサイズ問題と分裂騒動
- 仮想通貨に対する規制導入の動き
- 健全なコミュニティ作りの失敗
- バブル的な兆候
1. ビットコインのダーティーなイメージにつながった3つの事件
- ビットコインが違法取引に使われたシルクロード事件
- 大量のビットコインが消失したマウント・ゴックス事件
- 身代金をビットコインで要求するランサムウェア
2. 一握りの人のためのビットコイン
- 保有もマイニングも一部の人々に集中している。
- 上位1%の保有者が、全体の90%を保有。
- 上位3%の保有者が、全体の97%を保有。
- マイニング・ファーム上位13社が8割のシェアを占める。
3. ビットコインの仕組みに問題はないのか?
- 中長期的にみた懸念材料
発行上限 |
○2140年に上限に達する。2028年には上限の98%に達する。 ○発行上限の仕組みがあるから、性格が「通貨」から「資産」に変質してしまう。 |
---|---|
リワードの 半減期 |
○4年ごとにリワードが半減する。 ○マイニングからの撤退が増える。 |
4. ブロックサイズ問題がもたらしたビットコイン分裂騒動
5. 政府の介入によってビットコインは終わる?
6. 健全なコミュニティはできているのか?
-
健全なコミュニティ作りに失敗した理由
- インセンティブの仕組みが、あまりにも強く作用してしまった。
- 「規制のない支払手段」としての側面が注目されてしまった。
7. ビットコインはバブルか?
- 将来のキャッシュフローを割り引いて算出される理論価格は、ゼロ。
- 仮想通貨の本源的価値はゼロ。
第3章 ブロックチェーンこそ次世代のコア技術
1. これは本物の技術だ!
- ブロックチェーン技術 =分散型台帳技術 =DLT(Distributed Leger Technology) =共通帳簿(コモン・レッジャー)
- 金融の世界では、「ブロックチェーン」よりも「分散型台帳技術(DLT)」という言い方のほうが一般的になっている。
- 「ブロックを鎖状につなげて管理する」という技術的な側面よりも 「所有権データを分散型で管理する」という本質的な面が ユーザ(金融機関など)にとっては重要であるとみられるようになっている。
ブロクチェーン/分散型台帳技術の特性
改ざん耐性 | |
---|---|
高可用性 | ○1カ所が動かないとシステム全体が障害となるような「単一障害点」がない。 |
低コスト |
○大規模な集中管理センターが不要。 ○コンピュータ・リソースが少なくて済む分散型のコンピュータやデータベースで取引を管理。 ○ブロックチェーン技術に備わっている |
2. ブロックチェーンの類型
コンセンサス・アルゴリズム(合意形成の手法)
- 【合意形成】
分散したデータベース上に多数存在する台帳情報を、ネットワーク上の全員で共有するための手法。
具体的には、一定期間の取引をまとめて承認し、次のブロックを生成するためのプロセス。 - ビットコインでは「プルーフ・オブ・ワーク」
- オープン型では、信頼できない者同士のネットワークとなるため、取引の承認には厳格な手続きが必要。
- クローズド型では、信頼できる参加者のみが取引を承認することによって安全性が確保されているので、膨大な計算処理は不要。
プルーフ・オブ・ワーク (PoW) |
負荷の高い複雑な数学的な問題を解くことにより、最初に答えを見つけた人がブロックの更新権限を持つ仕組み。 |
○悪意ある参加者がいることを前提としている。 ○リアルタイム性に欠ける。 ○取引の完了性(ファイナリティ)を完全には確定できない。 |
---|---|---|
プルーフ・オブ・ステーク (PoS) |
コインの保有量が大きく、保有期間が長い人に、ブロックの更新権限が与えられる仕組み。 | |
プルーフ・オブ・インポータンス (PoW) |
コインの保有量・保有期間に加え、より多くの取引を行なっており、経済的な貢献度が大きい人に新しいブロックの更新権限が与えられる仕組み。 | |
実用的ビザンチン・ フォールト・トレランス (PBFT) |
コアノードとアプリノードを区別する。コアノードに権限を集中させ、コアノードによる合議制によって取引の承認を行なう仕組み。 一定比率以上のコアノードが合意した取引が承認される。 |
- 実用的ビザンチン・フォールト・トレランス(PBFT)
-
金融分野でPBFTが用いられている理由
- 大量の取引をリアルタイムで処理できる。
- ファイナリティを早期に確保できる。
3. 代表的なブロックチェーン(金融分野)
リナックスが進める ハイパーレッジャー・ファブリック |
○金融業界向けのブロックチェーンとしての標準化を志向。 ○IT企業が協力。IBMの関与が大きい。 ○金融以外(製造・保険・不動産契約・IoT・ライセンス管理・エネルギー取引など)への応用も。 ○オープンソース。 |
---|---|
R3コンソーシアムが進める コルダ |
○世界の主要銀黒がこぞって参加。成功すれば一気に普及する可能性。 ○金融取引に特化。 |
リップルが進める インターレッジャー・プロトコル |
4. 金融分野におけるブロックチェーンの実証実験の動き
国際送金 | リップル・プロジェクトがリード。 |
---|---|
証券決済 |
5. ブロックチェーン導入時に決めるべきこと
- 金融分野では↓
-
オープン型かクローズド型か
- →クローズド型
-
コンセンサス・アルゴリズムに何を使うか
- →実用的ビザンチン・フォールト・トレランス(PBFT)
-
参加者の役割・権限を分けるか
- →ノードによって役割を分ける
-
マイニングに対して報酬を出すか
- →なし
-
取引データを誰でも見られるようにするか
- →取引当事者以外には見られないようにする
-
金融分野のブロックチェーンで重要視されること
- 取引の安全性や信頼性
- 取引のリアルタイム性
- 早期の決済完了性(ファイナリティ)
第4章 通貨の電子化は歴史の必然
1. 貨幣の変遷は技術進歩と共に
貨幣の遍歴 | 利用技術 |
---|---|
自然貨幣 | |
↓ | |
商品貨幣 | ←農業技術、畜産技術 |
↓ | |
金属貨幣 | ←金属精錬技術、金属加工技術 |
↓ | |
鋳造貨幣 | ←鋳造技術、刻印技術 |
↓ | |
兌換紙幣 | ←製紙技術、印刷技術 |
↓ | |
不換紙幣 | |
↓ | |
(電子マネー) | ←ICカード技術、暗号技術、非接触通信技術 |
↓ | |
デジタル通貨? | ←ブロックチェーン/分散型台帳技術 |
- 貨幣というのは、その時々の利用可能な素材により、当時の最先端の技術を使って作られてきた。
- 貨幣へのデジタル技術の応用は、ある意味で「歴史の必然」。
2. 15年前から始まっていた通貨の電子化
3. 実証実験に動き出す世界の中央銀行
CADコイン
- 銀行間(インターバンク)における大口決済に利用。=決済用コイン(セトルメント・コイン)
- 法定通貨を裏付けとしてデジタル通貨が発行され、それを銀行間の決済に使い、使い終わったデジタル通貨を中銀に返却して、法定通貨に戻す。
第5章 中央銀行がデジタル通貨を発行する日
1. 2種類の中央銀行マネー
中央銀行マネー (セントラルバンク・マネー) |
中央銀行の負債としてのマネー |
○破綻の危険がなく、安全性が高い。 ○その受渡しによって決済が最終的に完了するという「ファイナリティ」(決済完了性)を有している。 |
---|---|---|
商業銀行マネー (コマーシャルバンク・マネー) |
民間銀行の預金(負債)としてのマネー |
中央銀行マネーの2つの形態
銀行券(現金) | 企業や個人などが幅広く保有して使うことができ、主として対面型の小口決済(リテール・ペイメント)に用いられる。 |
物理的な分散型。 デジタルの分散型システムと親和性が高い。 |
どちらをデジタル化する? |
---|---|---|---|
中央銀行の当座預金 | 銀行間の資金決済などの大口決済(ホールセール・ペイメント)に用いられる。 |
中央集権型。 すでに電子化済み。 |
2. 銀行券を電子化する「現金型デジタル通貨」
- あたかも国民一人一人が、中央銀行に口座を持つようになる。
- → 銀行の貸出業務への影響(貸出の原資が少なくなる) → 経済がうまく回らなくなる
3. 銀行経由で発行する「ハイブリッド型デジタル通貨」
-
2段階の仕組みで流通するRSコイン(イングランド銀行)
- 中央銀行は、銀行への卸売りに徹し、顧客への小売りは銀行に任せる。
- 中央銀行が管理するメインチェーン。民間銀行が管理する分散型のサブチェーン。
-
メリット
- 現在の取引の姿にも近く、銀行の中抜き問題が発生しない。
- 中央銀行が膨大な取引の管理や顧客との直接の関係維持を行なう必要がない。
4. 当座預金の機能を目指す「決済コイン型デジタル通貨」
中央銀行デジタル通貨の類型
類型 | 概要 | 代替する中央銀行 マネーの機能 |
構想・実証実験 |
---|---|---|---|
現金型デジタル通貨 | 中央銀行が国民に直接発行 | 銀行券 |
Fedコイン eクローナ |
ハイブリッド型 デジタル通貨 |
中央銀行が銀行を通じて国民に発行 |
RSコイン 中国人民銀行のチャイナコイン |
|
決済コイン型 デジタル通貨 |
銀行間の資金決済をデジタル通貨で行なう | 中央銀行の当座預金 |
カナダ中銀のCADコイン 日本銀行の基礎実験 MASの実証実験 HKMAの実証実験 ロシア中銀の実証実験案 |
-
各国の中央銀行が決済コインの分野で積極的な実証実験を行っている狙い
-
資金レグ(資金の受渡し)を証券レグ(証券の受渡し)と一緒に同じ分散型台帳で行なうためには
民間のデジタル通貨ではなく、中央銀行発行のデジタル通貨を使って資金決済を行なうことが必要。
(民間銀行マネーではファイナリティが確保できない)
-
資金レグ(資金の受渡し)を証券レグ(証券の受渡し)と一緒に同じ分散型台帳で行なうためには
民間のデジタル通貨ではなく、中央銀行発行のデジタル通貨を使って資金決済を行なうことが必要。
5. デジタル通貨は新たな政策ツールとなるか?
-
従来の金融政策
- 銀行行動を通じて間接的に効果を発揮。
- 銀行券を制作ツールに用いることはできなかった。
- デジタル通貨なら、ダイレクトな効果を発揮できる。デジタル通貨に「プラス金利」「マイナス金利」を付けることが可能。
第6章 ブロックチェーンによる国際送金革命
1. 高くて遅い「国際送金」の現状
-
国内の資金決済
- 各国に資金決済システムがあり、中央銀行が主要銀行の間をネットワークで結んで国内通貨による資金決済を行っている。
- 日本は、日銀ネットや全銀システム。
-
グローバルな資金決済
- 中央銀行のような機関がない。
- 銀行は、海外のコルレス銀行(海外の銀行のために決済を代行する銀行)との間で契約を結び、 お互いに口座を開設しあって、個別に相手行のために資金の受払を行なう。
- コルレス銀行間における国際的な送金メッセージの通信を行っているのがSWIFT。
-
国際送金に中継銀行が入ると、「遅くて、高くて、わかりにくい」。
- 時間がかかる
- 送金コストが高くつく
- 着金してみるまで最終的な入金額が分からない
2. 安くて早い国際送金を目指す「リップル・プロジェクト」
- ブロックチェーン技術を使って、銀行と銀行がネットワークで直接つながり、分散型台帳で情報を共有しつつ、送金を行なう。
- 仮想通貨XRPが「ブリッジ通貨」「媒介通貨」として使われる。
3. 国内におけるリップル・プロジェクトの展開
第7章 有望視される証券決済へのブロックチェーンの応用
1. 中央集権型で複雑な現行の証券決済
2. 相次ぐ実証実験プロジェクト
-
オープン・アセット・プロトコル
- ブロックチェーンが標準で持っているデータの余白領域に、独自のアセットを載せて流通させるための技術。
- チェイン社のカラード・コイン(Colored Coin)・・・ビットコインにアセット情報を載せる
- 実績:ナスダック・リンク
- アセットを移動させるためには少額のビットコイン(0.000001BTC)を実際に送る必要がある。
3. 証券決済への適用時に考慮すべき点