2019年12月3日火曜日

『会計の世界史』

田中靖浩 (著), 日本経済新聞出版社 (2018/9/25)
  • 第1部 簿記と会社の誕生 3枚の絵画
    • 第1章 15世紀イタリア 銀行革命 『トビアスと天使』
    • 第2章 15世紀イタリア 簿記革命 『最後の晩餐』
    • 第3章 17世紀オランダ 会社革命 『夜警』
  • 第2部 財務会計の歴史 3つの発明
    • 第4章 19世紀イギリス 利益革命 『蒸気機関車』
    • 第5章 20世紀アメリカ 投資家革命 『蒸気船』
    • 第6章 21世紀グローバル 国際革命 『自動車』
  • 第3部 管理会計とファイナンス 3つの名曲
    • 第7章 19世紀アメリカ 標準革命 『ディキシー』
    • 第8章 20世紀アメリカ 管理革命 『聖者の行進』
    • 第9章 21世紀アメリカ 価値革命 『イエスタデイ』
第1部 簿記と会社の誕生 3枚の絵画
第1章 15世紀イタリア 銀行革命 『トビアスと天使』
(1)絵描きに「トビアスと天使」の注文が殺到した理由
  • 香辛料(かさばらない、食品保存、ニオイ消し、薬)を求めて東方貿易
  • 勇敢な船乗り=リズカーレ(risidare)→ 「リスク」の語源
  • バンコ(銀行)が商人向けのキャッシュレス・サービスを開始。
  • リズカーレや商人の道中の安全を祈りに込めた「トビアスと天使」。バンコは天使のような存在。

(2)地中海で大活躍したリズカーレとそれを助けるバンコ
  • バンコによる遠隔地キャッシュレス・サービス = 為替手形
  • バンこのおかげで、イタリア商人はヨーロッパ中を相手に商売ができるように。

  • キリスト教は利息(ウズーラ)を禁じていた。
  • 利息を偽装する屁理屈 → 「失われたチャンスの補償」= インテレッセ = interest

  • イタリア商人とバンコは商売を成功させ、規模が大きくなった。

    「記録を付ける」必要性が生まれる。

    中世イタリア(ヴェネツィア)で簿記が生まれる。

(3)イタリアの黄金期を支えたバンコと簿記
  • 毛織物産業の衰退
    → 木綿産業の発展
    → 衣料を原料に「紙」が増加
  • 1回限りの貿易 → 継続的に活動する繊維産業 → 新たな組織(コンパーニャ compania)

第2章 15世紀イタリア 簿記革命 『最後の晩餐』
(1)レオナルドと「簿記の父」の運命的な出会い
  • 中世 = 暗黒時代 = キリスト教が支配していた「神の時代」
    • 教会の教えが絶対。「人間らしく」などという態度は許されない。
  • ルネサンス
    • 中世以前の歴史に返って「人間らしさを取り戻す」
    • レオナルド・ダ・ヴィンチがルネサンスの扉を開く。
  • 中世から次の時代への橋渡し
    • ルネサンス
    • 商売の繁栄と大規模化
      • 個人商店から大組織へ、 のちの株式会社へつながる「大規模に儲ける商人たち」。
        教会に並ぶ勢力に。
  • 商人たちを助けた「簿記」
    • 簿記の普及に大きな影響を及ぼした人物:
      ルカ・パチョーリ(数学者)
      (レオナルド・ダ・ヴィンチの先生でもある)
    • 彼の数学書『スンマ』(1494年)のなかのたった27ページで簿記について説明。
      (簿記を発明したわけではないが、これをきっかけで簿記が広まった。1494年が「簿記元年」。)

(2)処刑を逃れたコジモが支えたルネサンス
  • コジモ・デ・メディチのメディチ銀行
    • 通信手段がなかったため、支店に経営を任せる。(帳簿があってこそ)
      持株会社のルーツ

(3)公証人を頼らず、自ら記録を付けはじめた商人たち
ヴィネツィア フィレンツェ
メンバー 家族・親戚 仲間
活動 1回ごと 継続的

  • バランスシートの右下が「家族・親戚」から「仲間」へ。
    →「裏切り者」が現れる恐れ。
    →約束を文書で残す
  • 公証人が記録

    商人自らが記録

    簿記

    簿記のルール化・・・『スンマ』(ルカ・パチョーリ)

  • 帳簿を付けるメリット
    対外的 取引トラブル時の証拠
    体内的 「儲けの分配」トラブル時の証拠
(4)簿記革命とメディチ銀行の終わり

第3章 17世紀オランダ 会社革命 『夜警』
(1)神が中心から人間が中心の時代へ
中世 近世
が中心 人間が中心

(2)レンブラントとオランダの栄光
  • ↓ 16世紀、スペイン(カトリック)の支配下
  • ↓ 独立戦争
    • オランダ(プロテスタント) vs スペイン(カトリック)
  • ↓ プロテスタントを中心とした「商人の国」へ
    • カルヴァン派のプロテスタント
      • 「神から与えたもうた職業に励むこと」
      • 「商売に励み、儲けること」
      • 教会は質素
      • 贅沢・娯楽はNG →チューリップ・バブルへ
  • アムステルダム = 近世のAmazon
    • 貿易+海運

  • 美術品の商業化
    • 絵画の小型化・・・何気ない風景画や静物画
    • 市場取引財としての絵画・・・依頼主:教会から富裕市民に移行
  • 『夜警』レンブラント
    • レンブラントの人生は良き日々が短い


(3)オランダで誕生した株式会社とストレンジャー株主
  • オランダのライバル
    • スペイン・・・カトリック
    • ポルトガル・・カトリック
    • イギリス
    → オランダの大勝利
  • 「東インド会社(VOC)」を設立(1602年)
    • 目的
      • 安全かつ大砲を備えた船を作りたい
      • インドに現地拠点を作りたい
    • 世界初の株式会社
    • 当座企業から継続企業へ
    • 巨額資金を長期的に調達する必要
    • ストレンジャー株主の登場

出資者の移り変わり
ヴェネチア 家族・親族
フィレンツェ 仲間
オランダ ストレンジャー
イギリス マネーマニア度の高いストレンジャー

ストレンジャー株主のための環境
  • 有限責任制度
  • 儲けの配当(簿記で計算)・・・インカムゲイン
  • 証券取引所・・・キャピタルゲイン

(4)短命に終わったオランダ黄金時代
  • 17世紀はオランダ黄金期
  • 「レンブラントの世紀」とも言われる(良き日々が短い)
  • 主役はVOC(1602〜1799年)
    • 支えは、 簿記株式会社 証券取引所
  • オランダの転落
    • きっかけ・・・英蘭戦争
    • 予兆
      予兆 背景 その後
      ずさんな会計計算・報告 高すぎた株主への配当 不正・盗難に対するチェックの甘さ
      未熟な会計制度 内部留保の不足・借入れ体質 ガバナンス機能の不足
      財務会計・管理会計 コーポレート・ファイナンス コーポレート・ガバナンス
    • 「売れ筋の見極め」の失敗
      香辛料 (17世紀〜)
      絹織物・綿織物
      オランダ イギリス


第2部 財務会計の歴史 3つの発明
第4章 19世紀イギリス 利益革命 『蒸気機関車』
プロテスタント精神 オランダ カルヴァン派 労働は美徳
イギリス ピューリタン 〃(引き継ぐ)

-1「石ころ」の活用から世界トップへ躍り出たイギリス
  • 石炭の発見
  • 炭鉱の排水ポンプ用に蒸気機関を発明 (ジェームズ・ワット)
  • 蒸気機関から蒸気機関車を開発 (ジョージ・スティーブンソン)
    • 1830年9月15日、リバプール・マンチェスター鉄道の開通

(2)蒸気機関車のはじまりと固定資産
  • 鉄道会社の問題点
    • 開業までの初期投資がデカい。
    • 世界初の「固定資産が多い株式会社の資金調達・運用」。
    • 在庫なし。固定資産を長期的に利用して稼ぐ。
  • → 近代会計のルーツに
  • 減価償却の登場
    • 会計史のなかの重要なターニングポイント
    • 鉄道会社「儲けを平準化し、安定的に配当したい!」

(3)画家も株主も興奮した鉄道狂時代
(4)19世紀の鉄道会社からはじまった「利益」
  • 利益革命
    • 会計上の儲けは「収支」から離れ「利益」へ。
  • 産業革命による固定資産の増加

    減価償却の登場

    利益計算の登場
  • 「自分のための帳簿」から「他人のための決算書」に進化。(さらに進化@アメリカ)

現金主義
(cash basis)
収入 − 支出 = 収支
(Revenue - Expense = profit)
fact
発生主義
(accrual basis)
収益 − 費用 = 利益
(Revenue - Expense = profit)
fiction

  • revenue ⊂ sales, interest income

第5章 20世紀アメリカ 投資家革命 『蒸気船』
(1)西の新大陸へ、海を渡った移民と投資マネー
  • ジャガイモ危機

    アメリカを目指す

    アメリカ投資ブーム

    鉄道建設ラッシュ
  • 会計士は「破綻処理」から「監査」に業務を広げる。





(2)崩壊前夜、ニューヨーク・ラプソディ

(3)大悪党ジョー、まさかのSEC初代長官に就任
  • 1929年10月24日、暗黒の木曜日

  • フランクリン・ルーズベルト
    • ニューディール政策
    • 第二次世界大戦に参戦
    • グラス・スティーガル法・・・商業銀行と投資銀行を分離
    • 会計制度の改革・・・SEC(Securities and Exchange Commission、証券取引委員会)の設立
  • SECの設立
    • いかさまマーケットを公正な場に変えるべく設立。
    • SECの初代長官・・・ジョセフ・パトリック・ケネディ
      • 悪党。ジョン・F・ケネディの父。
    • 「公開企業の会計制度」の根幹ができあがる。
      経営者はルールに基づいて正しく決算書を作成すること。
      正しく作成されたかは監査を受けること。
      決算書を投資家に対してディスクローズすること。

      将来、株主・債権者になる可能性のある人も保護
       = 安心して入れるマーケット ・・・パブリック革命
(4)パブリックとプライベートの大きな分かれ目
第6章 21世紀グローバル 国際革命 『自動車』


(1)自動車にのめり込んだ機関車運転士の息子
(2)海運とITで覇権を握ったイギリスのグローバル戦略
(3)金融資本市場のグローバル化と国際会計基準
  • 1990年代のグローバル化
    • グローバルな投資

      国際会計基準(IFRS)← アメリカのUSギャップ vs イギリスのIFRS
    • 「自分のため」から「他人(投資家)のため」へ
      自分のため 他人(投資家)のため
      原価主義 時価主義
      製造業(日本、ドイツ) 金融業(アメリカ、イギリス)
    • 金融重視の流れへ

(4)増えるM&Aとキャッシュフロー計算書
  • 1999年、グラス・スティーガル法の撤廃
    • → 巨大金融機関の誕生
    • → ファンド、M&Aの増加
      • ファンド = 新しい株主
      • M&Aの増加 → EBITDAが注目
        • earnings before interest, tax, depreciation, and amortization
        • 「利息、税金、減価償却、償却費」控除前の利益
          • 「利息、税金、減価償却、償却費」は国によって違いが大きい
          • 利息・・・経済状況
          • 税金・・・税法
          • 減価償却、償却費・・・会計ルール
        • 本業の儲けを表現できる。=キャッシュに近い利益
        • 200年ぶりのキャッシュへの回帰現象
    • キャッシュフロー計算書の登場

第3部 管理会計とファイナンス 3つの名曲
第7章 19世紀アメリカ 標準革命 『ディキシー』
(1)南北戦争から大陸横断鉄道へ
  • 鉄道 + 銃 → 南北戦争で死者増
    • 鉄道・・・アメリカが1つになる象徴
  • 南北戦争の4年後、大陸横断鉄道が完成(1869年)

  • アメリカ各地で路線が建設

    路線を連結
    • 鉄道会社も合併
    • 19世紀末、はじめて先決決算が登場

    路線拡大

    同質的な都市が同時に発生

    同質の製品を大量生産

    管理会計の誕生・・・自分のための会計

(2)大量生産する工場の分業と原価計算
  • 工場に機械が増える

    さまざまなコスト(減価償却など)をどうやって 製品原価に落とし込むか?

    その仕組み = 原価計算
    └ 製造業にとって数字の生命線
    ・・・近代的な枠組みは19世紀アメリカで確立。

外部記録
ターニング
ポイント
内部記録
外部との取引を記録 原価計算

外部報告の
財務会計

内部利用の
管理会計

(3)ライバルを潰しながら巨大化する企業
  • 企業集中運動、コングロマリット
  • 水平的統合・・・ライバルを潰す
  • 垂直的統合・・・グループ全体のコストを下げる
  • 大げさな社名・・・US、アメリカ、ユナイテッド、ゼネラル、ナショナル...
  • 持株会社の形態
  • 鉄道会社に倣って、コングロマリットも連結決済を始める。
    • 決算書は、連結PL, 連結BS, 連結CFへ

(4)南部から北部へ旅立つコカ・コーラとジャズ
  • 南部で生まれ、北部へ広がった。
    コカ・コーラ 「コーラを売る権利」を又貸し
    フランチャイズ契約の始まり
    ブルース ミシシッピ・デルタで綿花栽培

    奴隷解放された黒人が綿花摘み(過酷)

    夜の酒場で歌う魂の叫び
    デルタ・ブルース
    ジャズ ニューオリンズにて
    ワークソングや黒人霊歌がごちゃまぜ

第8章 20世紀アメリカ 管理革命 『聖者の行進』
(1)シカゴからはじまったジャズと管理会計の100年史
  • 1920年代 = ジャズ・エイジ

シカゴ ルイ・アームストロング ジャズ演奏を始める。
シカゴ大学 【会計の歴史が変わる】 会計の新講座が始まる(by ジェームズ・マッキンゼー教授)
管理会計
予算管理
  • 予算は、会社の製造・販売部門を 効率よく管理して、儲けを出す仕組み。
  • 予算によって販売・生産部門の調整が可能になる。
  • トップが現場を統制することができる。

原価計算 予算管理
コスト
過去の実績
過去
利益
将来の計画
未来

  • T型フォードなど
    ・・・シカゴ周辺の製造業において、大量生産の技術は完成

    「規模」から「効率」へ

    管理会計

  • 経営者が学ぶべき会計が2本立てに
財務会計 【守りの会計】
決算書を作り報告する。
管理会計 【攻めの会計】
経営問題を解決するために
経営者が自由に組み立てる会計。
マッキンゼーが「型」を提供
  • 予算管理
  • 計画の重視
  • 限界利益

GE
  • 創業者エジソン・・・発明王
  • ジェラード・スウォーブ・・・販売王
    • 家電を売るため割賦販売を編みだす。

      アメリカ人の消費マインドを変えるインパクト
      = 借金を恐れないアメリカン・スピリット

      株も借金でかる → 1929大恐慌

(2)分けることで分かる「管区」由来のセグメント情報
(3)フランス系・デュポンの起こした管理会計革命
デュポン
  • セグメントに区分けし、それぞれの収益性を計算して業績評価。
  • 伝説のデュポン公式

    利益/資本 = 利益/売上 × 売上/資本

    ROI    =    P   ×   T
    資本利益率 =  利益率  ×  回転率

    利益率か回転率か、どちらで稼ぐか。

    基本思考: 小さな投資で大きな利益を
  • 計画 + 分ける + 評価する = セグメント別業績評価

(4)クロスオーバーがはじまった音楽と会計
  • 財務会計と管理会計のクロスオーバー
  • 二重の委託関係
    株主
    ↓ 委託(評価基準:ROE
    経営者
    ↓委託(評価基準:事業別ROI
    事業部長
第9章 21世紀アメリカ 価値革命 『イエスタデイ』
(1)マイケル・ジャクソンに学ぶ価値(バリュー)思考
(2)企業価値とは何か?
会計 財務会計 過去から現在までの取引をベースにした記録・計算・報告の体系。
管理会計
コーポレート・ファイナンス 未来の数字。

  • コーポレート・ファイナンス的な、企業価値の求め方
    • 会社買収後の将来キャッシュフローを見積もる
    • 将来キャッシュフローを現在価値に割引計算する

(3)投資銀行とファンドの活躍を支えたファイナンス


  • 簿記

    決算書


    管理会計

    ファイナンス

  • ファイナンス理論
    • 収益性評価に基づく事業の選別(NPV法、IRR法)
    • 割引に用いる資本コストの計算(CAPM、WACC)
    • 配当・自社株買い政策
  • ・・・「こうすれば企業価値を増やすことができる」という方法が明らかになった。

3つの「数字の力」 帳簿をつくる(イタリア・オランダ時代)
決算書を読む(イギリス・アメリカ時代)
未来を描く(アメリカ・グローバル時代)

  • 規模の追求(カーネギーやロックフェラー)

    効率の追求(デュポン)

    価値の追求

  • 短期的な売上・利益重視の古い常識を捨て、 未来の将来キャッシュフローを増やす努力をしなければならない。

(4)うつろいやすい「価値」を求め、さまよう私たち


田中靖浩 (著), 日本経済新聞出版社 (2018/9/25)