2017年11月3日金曜日

『ゲノム編集の衝撃』

  • DNA、遺伝子、ゲノム
  • 遺伝子組換え
  • ゲノム編集の第1、2、3世代
  • クリスパー・キャス9のメカニズム
  • クリスパー・キャス9のネット販売
  • 「角のない乳牛」の作り方
  • 「芽のないジャガイモ」の作り方
  • HIVの治療方法
  • 血友病の治療方法
  • CAR-T治療法
  • iPS細胞
  • サルをモデル動物に
  • ゲノム編集の規制
  • 人類を改変する
DNA、遺伝子、ゲノム
  • DNAは
    • A(アデニン)
    • T(チミン)
    • G(グアニン)
    • C(シトシン)
    という4つの塩基が並んだ構造をしている。
  • AとT、GとCが対になり、2本鎖をつくっている。
  • 塩基の並びが情報として遺伝子となっている。
  • 遺伝子の数はヒトでおよそ2万個。
  • DNAの遺伝情報すべての総称が「ゲノム(genome)」。
  • ゲノム(genome)は、遺伝子(gene)と染色体(chromosome)から合成された言葉。
  • 遺伝子はタンパク質の設計図。
  • 生物は、タンパク質で成り立っている。
  • 遺伝子が、生物の体の構造や基本的な特性を決めている。
遺伝子組換え
遺伝子組換え ゲノム編集
○偶然に頼った技術。
○遺伝子を入れたくても、はじかれたり、目的の位置に入らなかったり、複数入ってしまったり、コントロール不能。
○1970年代に大きく進歩。
○ウイルスやバクテリアは、感染すると相手の遺伝子の中に自己の遺伝子を組み込んで増える性質がある。これを利用。
○除草剤耐性のダイズ、害虫抵抗性のトウモロコシ。
○ねらった箇所を切って、遺伝子を挿入する。
○情報技術。
ゲノム編集の第1、2、3世代
第1世代 ZFN
(ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ)
○20年前
○編集したいDNAの塩基配列と結合するタンパク質の部品(ジンクフィンガー)を解析して設計し、制作する。このジンクフィンガーを細胞の中に送り込むと、何万もの遺伝子の中から目的の遺伝子を探し出して結合する。
○ジンクフィンガーには、遺伝子を切ることができる制限酵素が結合してある。
○遺伝子を切断し、ねらった遺伝子を働かなくする。
○ジンクフィンガーは、1つが3つの塩基をセットで認識する。
第2世代 TALEN
(ターレン)
○1つの塩基に1つのTALリピートが結合する。
第3世代 CRISPR-Cas9
(クリスパー・キャス9)
○2012年に発表。



ゲノム編集のメカニズム
クリスパー・
キャス9
ガイドRNA ○DNAのどの部分を標的として切断するのか案内するガイド役。
○塩基の「相補的結合」を利用して標的を探す。
○極めて簡単に作製できる。
○第1世代、第2世代でガイドとして使っていたタンパク質が不要になった。
キャス9 ○DNAを切断する酵素。
○修復しても、何度も切断を試みる。
○修復を繰り返す中で、修復ミスがあると、元の機能を発揮できなくなる。=遺伝子がピンポイントで壊れる(ノックアウト)

CRISPR
(クリスパー)
Clustered 群がった
Regularly- 規則的に
Interspaced スペースを空けた
Short 短い
Palindromic 回文的な
Repeats 繰り返し

・・・ TCCCGC GCGGGA ・・・

↓折れ曲がって、塩基ペアがくっつく

C
G
C
C
C
T
G
C
G
G
G
A





  • ウイルスが入ってくると…

  • ウイルスをCRISPRのspaceに取り込む。

  • 次に同じウイルスが入ってくると、
  • クリスパーからRNAが複製されて…

  • キャス9がRNAを切る。

  • RNAの元ウイルス部分が、新たに入ってきたウイルスにくっついて、
  • キャス9がウイルスを切る!


ジェニファー・ダウドナ博士
エマニュエル・シャルパンティエ博士
○大腸菌でクリスパー・キャス9が働いて遺伝子をねらった通りに切れることを示す。
○ほ乳類の遺伝子でも同じ効果を発揮するかは不明だった。
チャン博士 ○「ヒト293FT細胞」という細胞の中に、キャス9とガイドRNAを入れる方法を発表。注目を集める。
クリスパー・キャス9のネット販売
〜 アドジーン(addgene)
  • クリスパー・キャス9は、ゲノム編集を行う動物の種類や、細胞の種類などによって、異なるバージョンを使う必要がある。
  • addgeneで売られている。 https://www.addgene.org/
  • 世界中の研究者からクリスパー・キャス9が委託されている。100種類を超える。
  • 学術研究が目的の場合のみに販売。
  • 価格は一律65ドル。企業が販売する価格の100分の1。
  • addgeneは、使い勝手のよいクリスパー・キャス9など、ゲノム編集のツールを世界に格安で紹介する「お試し」システム。 委託した研究者にとっては宣伝・流通メディアでもある。
  • ゲノム編集の手順
    1. addgeneでクリスパー・キャス9のプラスミドを購入。…①
    2. ねらうDNAの塩基配列に特異的に結合するガイドRNAをつくる。…②
    3. ②を①に組み込んでゲノム編集したい細胞に振りかける。
  • 急拡大するゲノム編集ビジネス市場をつくったのがaddgene。
「角のない乳牛」の作り方
  1. 角のある乳牛から細胞を取り出す。
  2. それをゲノム編集の技術で「角をつくる」遺伝子に切り込みを入れ、働かなくさせる。
  3. 切り込みを入れたところに、「角をつくらない」肉牛の遺伝子を入れる。
  4. この細胞の核だけを、核を取り除いた未受精卵に移植する。
「芽(ソラニン、チャコニン)のないジャガイモ」の作り方
動物 細胞膜(柔らかい)に囲まれてるから、外からターレンやクリスパー・キャス9を簡単に注入できる。
植物 細胞壁(固い)に囲まれてるから、簡単には注入できない。
植物に感染する細菌を使ってゲノム編集に必要なターレンを、植物の細胞の中で作り出す。
HIVの治療方法
  1. 片方の腕から採血する。
  2. 白血球だけを分離する。
  3. 白血球だけを取り除いた血液を、もう片方の腕から戻す。
  4. 白血球をゲノム編集する。
  5. 白血球を血中に戻す。
血友病の治療方法
  • 血友病は、体内で直接的に治療
  • ゲノム編集する物質を肝臓に送り込んで、体内で直接遺伝子の異常を修復する。
CAR-T治療法
  • キメラ抗原受容体発現T細胞療法(Chimeric antigen receptor –T-cell:CAR-T)
  • がんの免疫治療の改良。
  • 本来ならT細胞は、がん細胞を攻撃すべきなのだが、がん細胞がこれを回避するようなトリックを行い、免疫機能をかわしながら増殖していく。【主要免疫回避機構】
  • CAR-T治療法は、「主要免疫回避機構」の働きを抑え、免疫機能を強化することでがんの増殖を抑える。

  • 患者から採取したT細胞の中に、対外である遺伝子(人口T細胞受容体遺伝子)を導入して増殖培養したのちに、患者の体内に戻す。
    • 遺伝子の導入方法: ウイルスベクターからゲノム編集へ
    • ※ウイルスベクターは、ウイルスが持つ病原性遺伝子を取り除き、外来の目的遺伝子を組み込んだもの。遺伝子組換えなどに用いられる。
iPS細胞
  • 分化しきった体細胞を受精卵に近い、あらゆる細胞に分かれる前の状態に戻す。
  • 特定の4つの遺伝子(ヤマナカ・ファクター)を体細胞に入れると、受精卵に近い段階にまで細胞が「初期化」される。
サルをモデル動物に
  • 病気の動物(モデル動物)をつくるのは難しい。マウス以外ではなかなか出来なかった。
  • ゲノム編集で、ヒトに近い動物でもモデル動物が次々とつくられ始めている。
  • 日本では、小型サル「コモンマーモセット」。
  • 創薬・難病の根治に展望が開けた。
ゲノム編集の規制
  • 【議論の的】「ゲノム編集した生物を『遺伝子組換え生物』として扱うのか、それとも『遺伝子組換え生物ではない』として扱うのか」
  • 【カルタヘナ法】
    • 遺伝子組換えを行なった生物は、自然界から適切に隔離すること。
    • 隔離した施設の外に出すときには、生態系に影響が出ないことを確認すること。
    →遺伝子組換え技術が社会に貢献することを妨げている。
  • ゲノム編集が遺伝子組み換え技術の一種であるとして規制されれば、研究開発のスピードは落ちる。
  • 【異論なし】ゲノム編集で別の生物の遺伝子を入れ込むことは、遺伝子組換え技術と同等。
  • 【議論中】ゲノム編集でねらった遺伝子を壊すことは、遺伝子組換えと同等か。
  • ねらった遺伝子を壊すだけのゲノム編集は、痕跡が残らない。突然変異と見分けがつかない。
人類を改変する
  • 体細胞へのゲノム編集は次の世代に引き継がれない。
  • 受精卵へのゲノム編集は次の世代に引き継がれる。=「人類の改変」